引っ越し先は、家賃8000円のワケあり物件!? 大学生男子と記憶のない幽霊“カノジョ”の、切なく優しい同居生活

マンガ

公開日:2017/3/11

    『のぼさんとカノジョ?』(モリコロス/徳間書店)

 前の住人が部屋で亡くなってしまったり、殺人事件の現場になってしまったりで“ワケあり”となってしまった物件を指す「事故物件」。事故物件には告知義務があり、借り手がなかなか見つからないことから相場に比べて激安であることが多い。しかし、自分には霊感がないから、と気にしない人もいる。そういう人間にとっては、事故物件は好条件のありがたい物件なのだ。

『のぼさんとカノジョ?』(モリコロス/徳間書店)の主人公・野保康久も、家具付き即入居可で家賃8000円という条件に惹かれて入居を決めた、事故物件の住人だ。大学生の野保は、住んでいたアパートが火事になり、即日で住める物件を探していたところ、不動産会社の人にこの物件を勧められたのだ。

 しかし家賃8000円という激安価格にはそれなりに理由があり、初日から見えない何かからの猛攻撃が始まった。攻撃とはいっても野保に直接危害を加えてくるわけではないが、部屋中を物が飛び交い、レポートもろくに書けない。

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 しかしここでふと気がついた。もしかしたら、気づいてほしかったのでは、と。そこで野保はホワイトボードを購入し、部屋に向かって「今まで無視してすみませんでした!!!」「ボクに何か用があるなら…これに書いてください!!!」と叫んだ。するとホワイトボードには、「ありがとう」の文字が。野保は見えない相手を「カノジョ」と呼ぶことに決め、ここから2人の生活は始まっていく――。

 カノジョは、自分のことを何も覚えていない。名前も、性別も、自分がなぜここにいるのかも、何一つ分からない。それでも、野保と暮らしているカノジョはとても生き生きとしていて、ホワイトボードを通じて感情が伝わってくる。今までずっと住人に逃げられ続け、寂しい時を過ごしてきたカノジョにとって、野保は唯一自分を認めてくれた特別な相手なのだ。

 そして、2人で暮らしていく中で、ほんの少しずつ記憶を取り戻していく。最初に変化が現れたのは、2人で餃子を作っていた時だった。野保が何気なく口にした「楽しいね」という言葉を聞いた瞬間、カノジョの中に男性の姿が浮かび上がったのだ。そしてその男こそが、カノジョがこの部屋にいる理由だった。

 思いもよらない形で女性(仮)との同居が始まった野保だが、野保も男だ。カノジョと寝食をともにし、長く関わっていくうちに、次第にカノジョに恋愛感情を抱いていく。それはカノジョも同じだった。そしてついに、5巻のラストで、2人はついに両想いとなる。

 でも、カノジョは記憶も実体もない、得体の知れない幽霊。野保の将来を考えたカノジョは、ある日「じょうぶつしようとおもって」と打ち明ける。カノジョが野保を好きなのは、日ごろの態度からものすごく伝わってくる。だからこそ、この決意から計り知れない愛が伝わってきて、心が引き裂かれそうになる。

 6巻終盤から最新刊の7巻では、ついにカノジョの脳裏をよぎった謎の男性の正体が明らかとなり、急展開を迎える。今年の秋には、最終巻となる8巻の発売が決定している。ラストには、一体どんな展開が待ち受けているのだろうか。続きが気になって仕方がない。

文=月乃雫