気ままでツンデレ、愛猫とのゆるやかな日々

暮らし

公開日:2017/3/12

『くうねるニャンコ』(たぁぽん/ぶんか社)

 浮気でいじらしい猫さんと暮らしたい、気高い猫さんにお仕えしたい、でも今はそれが叶わない――そんな皆さんにとって、猫さんとの暮らしを描くクリエイターさんの作品は、この上ないエンターテインメントとなることでしょう。猫雑誌やフォトブックなど、情報や写真をメインとしたものも人気ですが、作者の方の愛や主観が滲み出た、漫画作品もいいものですよ。今回は、安心して読めて厭味のない、キュートな猫漫画のご紹介です。

『くうねるニャンコ』(たぁぽん/ぶんか社)は、漫画家・たぁぽんさんによる、愛猫との暮らしを描いたコミックエッセイ。主人公は、キジ柄の猫さん2匹。葡萄(ぶどう)ちゃんと茘枝(らいち)ちゃん、どちらも元気な男の子です。そんな2匹を溺愛しているのがたぁぽんさんなのですが、尽くせども尽くせども、彼らの関心は、たぁぽんさんのダンナ様に向くばかり。相手によって露骨に態度を変えるというのはまさに「猫あるある」ですが、この本にはそんな、猫さんとの暮らしの日常に見られる、のんびり・ほんわかネタがたっぷり詰まっています。

 例えば、こんなエピソードも。お食事中のたぁぽんさんのお膝で、食卓の一部へ熱視線を送る茘枝ちゃん。狙いは焼き魚かと思ったら、どうやらお茶碗のご飯が気になるようです。以前パンにも興味を示していたことから、一旦は「もちもちしたものが好きなのかな?」と考えたたぁぽんさん。ですが、過去に鳥さん用のエサに目を輝かせていたのを振り返って、ひょっとして茘枝ちゃんの嗜好は、“穀物全般”なのではないかとの仮説に至ります。

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 そんな折、たぁぽんさんのダンナ様が愛情を注いでいた、再生栽培(芯や根の付近などを水に浸け、可食部を再収穫すること)の野菜たちが豪快にひっくり返され、その奥で育てていた猫草の芽だけが食い荒らされる…という事件が発生。家庭菜園のお野菜や鉢植えの食虫植物を狙った前科のある葡萄ちゃんが犯人かと思われましたが、現行犯で捕まったのは、意外にも茘枝ちゃんでした。

 好みがハッキリしている上に、野菜類には食指を動かしてこなかった茘枝ちゃん。それが何故…という話なのですが、猫好きさんならきっと、おわかりですよね。そう、一般的に「猫草」として販売されている植物は、正確には燕麦(えんばく。別名カラスムギ)といって、その大元となる種は、茘枝ちゃんの大好きな穀物だった…というワケなのです。茘枝ちゃんは別に、種そのものじゃなくても良かったんですね。

 残念ながら私たち人間はまだ、猫さんの気持ちを、高い精度で理解する術を持っていません。しかし、だからこそ、こちらのたぁぽんさんのように、彼らを具に観察し、さまざまな仮説を設定・検証するという、幸せな日々を送れているのではないでしょうか。

 猫さんに限ったことではありませんが、動物たちとの暮らしの尊さは、それが難しくなって初めて、気付くケースが多いとも言われます。縁起でもない!と思われる方も少なくないでしょうが、いつか訪れる別れについて考えておく大切さは、著者であるたぁぽんさんも痛感されているようで…。と、この部分は同書への描き下ろしとなっておりますので、詳しくはお手に取ってご覧くださいませ。

 こちらのシリーズの単行本は、今作が都合、第4弾。これまでの3巻はそれぞれ『とらぶるニャンコ』『おきらくニャンコ』『きまぐれニャンコ』の名前で発行されていますが、エピソードは基本的に1話完結ですので、どこから読み始めても楽しめますよ。

 そして最近、たぁぽんさん宅には新たに、木通(あけび)ちゃんというおちびさんが仲間入りしたようです。先輩猫さんに続いたのはスウィートなお名前だけでなく、何とこちらの木通ちゃんも、キジ柄の美男子なのです…!気になる方はぜひ、たぁぽんさんのblogや、Twitter(@taapon_pnd)もチェックしてみてくださいね。

文=神田はるよ