日常会話の80%は「中学英語」で通じる! 記録的に売れている『マンガでおさらい中学英語』を作った人たちに“おさらい法”を聞いた!

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更新日:2017/6/4

(左から)高橋基治先生、フクチマミさん、編集Kさん

 現在、10 万部を超える語学書としては記録的なヒットとなっている『マンガでおさらい中学英語』(フクチマミ、高橋基治/KADOKAWA)。実はマンガを描いたフクチマミさん(マンガイラストレーター)は英語が大のニガテで、この本を描いたことで英語好きに変身したとか…。でも、本当に中学英語ってそんなに役に立つの? 共著者の東洋英和女学院大学教授・高橋基治先生と編集担当のKさんも加わってもらい、そんな疑問に迫りました!

「中学英語」は「ひらがな」と同じ!


『マンガでおさらい中学英語』(フクチマミ、高橋基治/KADOKAWA)

フクチマミさん(以下、フクチ) 私、ものすごく英語がニガテで、ほんとにこの本を書くまでは「中学英語」が使えるなんて思っていませんでした。通じる英語と中学英語は別物で、むしろ「学び直しの中学英語」は遠回りくらいに思っていて。

高橋基治先生(以下、高橋先生) 全然、そんなことないんですよ。みんな知っているのに、使い切れてないだけなんですから。実際、日常生活で使う80%の単語は中学英語で、高校まで入れたら90%です。

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フクチ 先生が強く言ってくださったので、「やり直しなら、むしろ一回やっている分、やりやすいかな?」と思えました。

編集K 最初はこの企画、英語嫌いのフクチさんには断られそうになりましたもんね(笑)。

高橋先生 日常会話は、中学英語でいけるどころか、ほとんどカバーできるんです。ただ、公共性が高くなればなるほど、大学受験で習うようなボキャブラリーを使うようになるだけで。たとえば、中学英語の「get」の場合、「obtain」とか「gain」とかギリシア・ラテン語、フランス語系の言葉を使う方がインテリっぽく見える。中学英語は日本語でいう「ひらがな」ですよ。ギリシア・ラテン語系を「漢字」だと思えば、まずは「ひらがな」ができればほとんどオッケーでしょう?

編集K 実際「中学英語」って語学書業界の中では定番で、その中でもこの本が10万部も超えているというのは、おそらく多くの方がフクチさんと同じようにニガテ意識を抱えていて、「中学英語でマンガなら」と、とりあえず手にとってくださったのかな、と。

フクチ 私、ほんとに英語が嫌いでしたからね。同じ単語なのに日本語訳がいろいろあって一貫性もないし、理由もわからないし、なのに授業はどんどん進んでいく一方で、そんなことが続いたら英語を見るのもイヤになっていて。でも実際、高橋先生に教えていただいたら衝撃的なくらい面白かったんです。こんなに日本語と英語で感覚が違うなんて初めて知ったし、でもそういうところがむしろ面白いところで。

高橋先生 中学英語で「数えられる名詞」と「数えられない名詞」っていうのが出てくるでしょ? 英語ってそういうのにすごく敏感なんですよ。たとえば好きなペットをきかれて「I like dog」と答えたら、すごく恐ろしいことを言っていることになるんです。犬は数えられるから〈a dog/the dog/dogs〉になるので、ただのdogだとカタチのないぐちゃーっとしたもの、つまり「犬肉」ってことになっちゃう。まあ、実際の会話では文脈から理解してくれるから大丈夫ですけどね。でも、こういう話って面白いでしょ? きっとこういう話から入れば中学校の授業も楽しいんじゃないかと思います。

マンガならニガテさんにもわかりやすい

高橋先生 大抵の語学書って、数学の数式みたいな文字が羅列してあるから読むのもイヤになりますよね。でもマンガだとストーリーがあるから取っ付きやすいし、絵もシンプルだからサッと読めそうな気もするし。

編集K  でも本を作るのには相当時間をかけたんですよね。月に1度のミーティングでフクチさんが問題集で復習してわからないところを先生に解説していただいて。

高橋先生 そうそう。質問がするどくてひーひー言いながらやりましたよ。もはやハードコアのゼミというか、大学レベルの深いことまでやりましたし、軽そうに見えて英語の本質をついた内容がたくさん載っています。

フクチ  先生の解説が本当に面白くて、子供のお迎えギリギリまで夢中になってミーティングしましたね。いつもは英語の授業が始まると眠くなった私が、最初から最後まで熱中できたんです。

高橋先生 脱線も多かったですけどね。実際に本に載っているのは全体から見れば何分の一ですから。たとえば「あなたはなんで日本に来られたんですか?」と聞くとき、よく「Why did you come to Japan?」って言いますけど、ネイティブなら初対面でそんな質問は絶対にしません。まるで職務質問みたいで失礼ですから。だから遠回しに「What brought you to Japan?」と言う。英語には「いつ、どんな場で、誰に向かって言うのか」という社会言語的な感覚があるんですが、そういうのは学校では習わないですからね。

フクチ …と、こんな感じで先生がいろいろ教えてくださった中から、この本の読者層にあわせてチョイスして…。

編集K そうなんです。やっぱりマンガなら読めるかも…という感じのところに、「え、Why ってダメなの?難しい!」ってなるといけないので、「この話は面白いけど、やめましょう」みたいなのがたくさんありましたね。

フクチ でも、こういうお話をたくさん聞くからこそ、踏まえてわかってくることもあって。エピソードを積み重ねたから見えるニュアンスもあって、時間はかかりましたけど、それがすごく本にいきていると思います。

編集K マンガにするフクチさんも大変だったと思います。今までの教材には導入にマンガを使ったものはあっても、解説自体がマンガになっているものはなかったはずですし。

フクチ 英語が苦手な人にはしんどい情報を読んでもらうことになりますから、余計な情報が邪魔にならないようイラストを極限までシンプルにしたり、なるべく絵で説明できるところは視覚的に理解してもらうようにしたり、いろいろこだわりました。

高橋先生 「前置詞」がわかりやすい例ですね。「on」のぴたっと接するイメージなどが視覚的にわかると、たとえばレストランで「私がおごるよ」っていうときに「It’s on me」と言う理屈がわかる。請求書を自分に接触させるわけですからね。ほかにも「on time(時間通りに)」も、時間にぴたっとくっついているイメージになる。

フクチ そういう慣用表現みたいに丸暗記していたものにも、ちゃんと理屈があるっていうのも発見でした。

高橋先生 英語は文脈が命なので、文脈が変われば同じ言葉でもどんどん意味が変わっていったりもします。あるいは現在完了形なんかの構文も、ネイティブは無意識のうちに理由があって過去形と使い分けている。現在完了だと過去を引きずりながら現在の気持ちを表すようになるんですね。

フクチ そういうお話を聞くと、英語圏の人たちの感覚とか歴史とかが、ふわっと立体的に立ち上がってくる感じがします。今までただ覚えなきゃと思っていたものが、ストーリーのようになって面白いなーって。

高橋先生 言葉の背景を知ると、もっと深みが出ますからね。

フクチ そう、血肉になって、英語が「言葉」になった感じです。この感覚はもちろん書く中で知ったんですけど、それがわかるとほんと英語学習が楽しくなるんですよね。たぶん私のように英語の理屈を日本語で考えてしまった人は英語につまずきやすいんだと思うんですが、英語と日本語の違いに気がつくと英語が楽しくなってくるし、この本でそういうエッセンスが伝わるとうれしいですね。

効果的な「中学英語」勉強法は?

編集K 先生のお話は時折、かなりハイレベルなんですが、やっぱり中学英語の基礎ができれば文章の組み立てが自分でできるようになりますから、たどたどしくても間違っても子供っぽくってもいいから、簡単な文を話してみたり、書いてみたりできるようになるのは大きいですよ。

フクチ 最後に私、自分で考えた文章を組み立てられたんです。そのときの感動たるや! 私にもデキるんだってすごくうれしくって(笑)。

高橋先生 おそらくみなさん、英語を聞いたりしゃべったりできるようになるとワクワクしますよね。ワクワクするものは基本的にみんなやりたくなるから、どんどん自分から学習するようになる。実は英語がバリバリにできる人たちの学習歴を見てみると、その原点にテストでいい点をとったり、発音を誉められたりといった成功体験があるんです。その意味では、この本はニガテな人に「気付き」を与えて、次へのステップにしてもらえるんじゃないかな。

編集K どこから読んでいただいてもいいので、気になるところからで大丈夫ですよね。気負わずに読んでほしいからマンガにしてあるので、まずは気軽に読んでいただけたら。

高橋先生 あとは半径1メートル以内、つまり日常生活の中で英語と触れる機会を作っておくといいですよ。英語は外国語なので、自分から近寄らないと、人間と同じで寄ってきてくれないです。能力、性別、年齢、一切関係ないですからぜひ心がけてほしいですね。

フクチ 本にもありますが、「薄い問題集」を解くのもいいですよね。

高橋先生 そうなんです。実はみなさん問題集の使い方を間違えていて、問題を解いて答え合わせをするだけではこれまでに培った実力を測っているだけで、実力なんてつかないんですよ。間違えた問題こそわかってないことを教えてくれるんだから、そこを徹底的につぶさないと。そのためには一冊の問題集を最低3回は繰り返したほうがいいですね。

フクチ お料理も同じレシピを3回作れば、自分のものになるっていいますもんね。

高橋先生 みなさん勝手な誤解で、問題集をやれば実力があがると思うんですが、自分がそこにどう関わったかということでしか実力はあげられないんです。

編集K この本もさっと読めるようで案外ボリュームありますから、3回読んでもらえたらいいかもしれません。そして問題集をやる、と。

高橋先生 「中学英語」としてまとまっているのでいいですから、これならできそうという薄いものを探してみてください。ところでKさんのところではドリルは出してないんですか?

編集K ドリルですか…ずっと昔のならありますけど…あ、このシリーズでドリルも作ったらいいかも!

フクチ あ、それはいい! やりましょう! 張り切ってイラスト書きますよっ(笑)!

取材・文=荒井理恵


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