文芸・カルチャー

『攻殻』『009』の神山監督、最新作『ひるね姫』は親子の絆! 映画EDでのみ描かれる「ココネの知らない物語」にも注目!


『小説 ひるね姫~知らないワタシの物語~』(神山健治/KADOKAWA)

 「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズや『東のエデン』といったアニメ作品の監督として人気を誇る、神山健治監督のオリジナルアニメ映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』。監督自らが執筆した、その映画の原作小説が『小説 ひるね姫~知らないワタシの物語~』(KADOKAWA)だ。

 詳しくない人にはピンとこないかもしれないけれども、神山監督は「硬派なストーリーのアニメ作品を作る監督」というイメージが強い。重厚で社会派なストーリーのアニメ作品をたくさん作っているし、ファンもそれを期待している。なので、神山監督を知るファンはこの情報が公開された時、いつもの神山監督の作品じゃないみたいだと驚いた人も多かっただろう。なにせ主人公は地方住まいの、いかにもイマドキな感じの女子高生。しかも「昼寝」という、普通はそれを特技とは言わんだろうという特技を持つ、今までの神山作品には出てこないタイプの女の子。一体どんな話だとざわついたファンは多かったに違いない。私もその一人だ。

 冒頭、まるでおとぎ話を語るような語り口で、ファンタジーめいた物語が語られる。えっ、主人公ってあの眠そうな女子高生だったはずじゃ、ていうか舞台は岡山県って聞いたような…と、事前情報から予想もつかない話が始まり、パニックになっている読者を置いて語られるのは、魔法が禁じられた国で魔法が使えるお姫様・エンシェンと、その国を襲う災いである「鬼」の存在、古い考えに固執する王、王の座を狙うベワンという男の物語だ。どこか寓話めいたストーリーに、これはいつもの神山作品の「かっこいいアクション」が存分に展開される話なのだろうか、という期待が高まってきたところで唐突に語り口は変わる。

 事前情報として公開された通り、東京オリンピックを数日後に控えた近未来の日本、岡山県の片隅で日々を送る、いつも眠たげな女子高生・ココネの日常。高校3年生の夏という時期にもかかわらず、死別した母親の代わりに父親の世話を焼き、父親とその友人らの徹夜麻雀に付き合って夜更かしするような、ちょっと心配になるぐらいにのんびりした女子高生。冒頭のファンタジー世界はどうやらこのココネが見ていた夢だったらしいことがわかり、じゃあやっぱりこの物語は女子高生の日常を描いた話なのだろうかと思い始めたところで、ココネの見ている夢が現実に浸食を始めているような奇妙な出来事が起こり始める。ココネは夢と現実を行き来しながら、ある企みによって嵌められてしまった父親を救おうと、幼なじみのモリオを巻き込んで大冒険をする―という物語がこの『ひるね姫』なのだ。

 寡黙だが娘想いの父親・モモタローと、ココネが生まれてすぐに亡くなった母親・イクミ。父親を救おうと奮闘するココネは、自分の知らないモモタローとイクミの物語をひも解いていくことになる。今まで自分の身の回りの「今」しか知らなかったココネが、自分が生まれるまでの「過去」を知り、未来に思いを馳せる。

 人はつい「今」にばかり目を向けてしまうけれど、どんな人にも過去の物語は存在する。この分からず屋と睨みつけた相手にも、やりきれない思いにむせび泣いた夜があったのかもしれないということを忘れてしまいがちだ。そしてその物語は、時々思いもよらぬところで自分の物語と交差し、新たな物語が生まれる。そうやって紡がれていく物語に思いを馳せると、なんだか優しい気持ちになれる気がした。

 ファンタジックだけれど優しい物語。しかし、その中にはしっかりいつもの神山作品らしいアクションも展開されていて、ここはきちんとスクリーンで見たいな、という場面もたくさんあるが、このキャラのこの気持ちはきちんと文字で読んで噛み締めたいな、と思う記述もたくさんある。小説だけ、映画だけでも楽しめるけれど、両方欲張って味わうと更に深く楽しめる物語だ。映画のエンドロールでのみ描かれる「ココネの知らない物語」にも、ぜひ注目してほしい。



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