猫たちとの時間に突然終わりが…愛猫を抱きしめたくなる「特別な猫本」

生活

2017/3/12

『猫には嫌なところがまったくない』(山田かおり/幻冬舎)

 空前の猫ブームだ。日本におけるペットの代表である犬と猫。数年前までは犬を飼う人の方がずっと多かったという。ところがここ数年、犬を飼う人は減少しており、猫については横ばいで、年々その差が縮まってきているという。それは、猫は犬と違って散歩に連れて行く必要がないことや、大きな声で吠えることがないという理由で飼いやすいから、などといわれる。しかしそれよりも、猫のどこかミステリアスな魅力と愛くるしさに、心を射抜かれる人が多いからではないだろうか。

 『猫には嫌なところがまったくない』(山田かおり/幻冬舎)は、そんな猫好きのひとりであるファッションデザイナーの女性が2匹の猫たちとの共同生活の中で孤軍奮闘している日々が綴られている。タイトルは、猫好きの著者の母が言ったなにげないひとことからつけられたそう。本書は、著者が立ち上げたファッションブランドのホームページで綴っている自身の日記の中からセレクトされ、加筆修正されたものだ。撮りためられた2匹の愛猫、“CP”(チャッピー)と“のりやす”の写真も豊富に掲載されている。

 75ある日記の前半の内容は、猫たちとの蜜月の日々のつぶやきにとどまらない。自身を「お姉」と称する著者のどたばたな生活ぶり、個性的な家族の話、仕事仲間とハロウィンの仮装をして寿司屋に行ったエピソードなど話題は多岐にわたる 。内容の面白さとテンポの良い文章の巧みさで読者を飽きさせない。

 しかし、後半、猫たちとの時間に突然終わりが来ると、日記の雰囲気は一変する。寒くてヒーターをつけようとするときに、フィルターにたまっているであろう猫の毛玉のことを考えたり、わざと猫の毛がついたままのジャケットを着て歩いたり、部屋の片隅に置き去りにされた買いだめしておいたキャットフードを悲しく眺めたり…ペットロス、そんな簡単な言葉では片付けられない著者の猫たちへの思いと喪失感が日記の文章に溢れ出る。

 猫がいる日々は確かに楽しかったけれど、いなくなった今もそれはそれで変わらない。

 さっき近所で消防車とすれ違ったのに、もしかしたらうちかもしれないというこれまでの焦る気持ちがなくなっている。大切なものなど何もない私の部屋なら燃えてもかまわない。もう燃えたらいいわ。帰ってきたら隕石が落ちていて、猫たちの骨壺が跡形もなく消えていたとしてもかまわない。落ちればいいわ。

 実は猫アレルギーだったという事実に、猫がいなくなってから気づいた著者の思いの吐露は、心を突き刺してくる。本書には、猫に限らず心から愛するものを失ってしまった人たちの閉ざされた気持ちの奥に響く何かを感じる。猫たちの愛くるしい姿を見てほっこりするだけの本とは一線を画す、特別な猫本なのである。

文=銀 璃子