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「他人の不幸」はなぜ蜜の味? 笑顔を作ると楽しくなるワケは? 脳の“クセ”を解き明かす


『脳には妙なクセがある』(池谷裕二/扶桑社)

「他人の不幸は蜜の味」――なんとも嫌な言葉である。他人の不幸を喜ぶなんて、自分はなんて卑しい人間なのだろうか。しかし、『脳には妙なクセがある』(池谷裕二/扶桑社)を読むと、それも仕方がないのかも知れないと思う。なぜなら脳の仕組みがそうなっているというからだ。

 平均22歳の男女19人に、かつての同窓生たちが社会的に成功した生活を送っているシーンを想像してもらう実験を行った。すると、脳内では「前帯状皮質」が活動することが分かった。前帯状皮質とは、不安情動や苦痛に関与する部位である。

 さらに、その羨むべき同窓生が、「不慮の事故や相方の浮気などで不幸に陥った」ことを知ったときの脳活動を記録したところ、代わりに「側坐核」が活動を始めたという。側坐核とは、快感を生み出す部位、いわゆる「報酬系」である。つまり、他人の不幸を気持ちよく感じてしまう本心は、根源的な感情として脳に備わっているというわけだ。

「報酬系」は、いわば、脳へのご褒美で、やる気やモチベーションとも深く関与している。こう考えると、「他人の不幸をバネに」と自身を鼓舞することは、普遍的な心理的傾向。となれば、ただただ「汚らわしい」「卑屈だ」などと短絡的に決めつけるのも、生物学的な観点からはいかがなものかと著者は指摘する。

「笑顔を作ると楽しくなる」という言葉もある。楽しいから笑顔になるのではなく、笑顔を作るから楽しくなる――どうにもスピリチュアル臭い発想だが、これも脳研究で説明できるという。被験者に箸をくわえてもらう実験で、箸を横にくわえたときの脳の働きと、縦にくわえたときの脳の働きを比較した。この2つの状態で漫画を読み、漫画の面白さに点数をつけると、同じ漫画であっても箸を横にくわえたほうが高得点になった。

 笑顔に似た表情を作ると、ドーパミン系の神経活動が変化することが分かっている。「ドーパミン」も脳の報酬系、つまり「快楽」に関係した神経伝達物質であることを考えると、楽しいから笑顔を作るというより、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果が、私たちの脳にはあることが分かる。

 著者は言う。「意志は脳から生まれるものではない。周囲の環境と身体の状況で決まる」。たとえば、指でモノを指してほしいと依頼すると、右利きの人ならば右指で指すはずだ。この選択は、本人の意志だろうか。そうとは言い難い。当人の習慣として右手を使うことが決まっているわけだから、むしろ「クセ」といったほうが的確だ。「自由意志とは本人の錯覚にすぎず、実際の行動の大部分は、環境や刺激によって、あるいは普段の習慣によって決まっている」――著者は一貫してこの考えを主張している。

 脳にはさまざまな「クセ」がある。ゲームにはまるクセ、恋し愛するクセ、ブランドにこだわるクセ、人目を気にするクセ、眠たがるクセ……こういった脳のクセを知ることで、普段抱えている悩みも、「脳がそうなっているから」と楽観的に捉えることができるだろう。

 筆者は、「“自分が好き”というクセ」の章に感銘を受けた。日本語の「プライド」と、英語の「pride」。双方の意味は、立ち位置が正反対なのだ。「プライド」は、他者の存在によって相対的に規定される。一方、英語では、あくまでも本人の感情が主体。自分に尊厳を感じることで、喜びを味わうことだ。「プライドを持て」と言われたとき、他者軸で考えるのは荷が重い。しかし、自分に尊厳持ち、喜びを感じることなら容易にできる。本書に書かれている脳の働きや認知の仕方に、胸がすく思いがした。

文=尾崎ムギ子



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