実写「ゴースト・イン・ザ・シェル」の成否は?【アニメ映画が面白い!第8回】

アニメ

公開日:2017/3/31

 日本でたびたびアニメ化された士郎正宗『攻殻機動隊』が、米国で実写映画化された。4月7日に全国公開される映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』だ。主演はいまハリウッドで最も注目される女優のひとりスカーレット・ヨハンソン、監督には『スノーホワイト』で目覚ましい冴えを見せた新進のルパート・サンダース、そして製作はドリームワークス。大作である。
 日本のマンガやアニメが米国で実写化されると、やはりこれまでのファンが気になるのは原作の持つイメージやエッセンスがどこまで伝わるかである。もちろん映画は原作とは別作品だ。それでもオリジナルのタイトル、イメージが使用されるからには、そこは守って欲しいというわけだ。

 しかし『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、そうした意味では、ファンにとって十分納得の出来る作品に仕上がった。映画には『攻殻機動隊』の壮大な物語を2時間程度で語り、初めて作品を知る観客にも理解させなければいけない困難さはある。そのためストーリーは、ハリウッドの大作映画らしくよりシンプルになった。
作品のテーマは、主人公の自分探しにフォーカスされた。素子が義体化されたきっかけをはじめ、いくつかの重要な設定が変更されている。
驚くべきは、そうした難題にも関わらず、映画が驚くほど『攻殻機動隊』になっていることだ。制作に携わったサンダース監督をはじめとするスタッフのリスペクトが至るところに感じられる。20年以上にわたり様々なかたちで紡がれてきた『攻殻機動隊』の歴史の流れを、ここでもつながげていこうという強い意志がある。

本編には、これまでのアニメで創られたイメージがしばしば引用されている。例えば映画冒頭の主人公が構想ビルから飛び降りるシーン、予告編使われたこのイメージは押井版、神山版、後藤版でもたびたび使われたイメージだ。
引用やオマージュは、いくつもの作品の様々な場面に及び、ファンならあちこちで思わずニヤリとするだろう。それぞれのシーンは原典のストーリーの流れには必ずしも依拠していない。それはむしろファンが共通して持つ『攻殻機動隊』の総体的なイメージをコラージュとして描いている。次々に現れる見慣れたイメージに、シリーズを愛するスタッフが、どうしてもこのシーンを実写にしたかったのだなと、なんともも微笑ましい。
そして映画の最後まで観れば、なぜ本作の主人公を演じるのがなぜスカーレット・ヨハンソンなのかも納得がいくはずだ。

advertisement

一方で、本作は壮大な物語のほんの序章に過ぎないとも思わせる。主人公の背景描写に多くが割かれた今回を第1弾として、願わくば、さらなる映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』を望みたい。 

映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』に親しんだファンは、作り手の愛ゆえにきっとストレートに受け止められるはずだ。ハリウッド映画ならではの実写のリアリティを満喫できる。それだけでも十分に観る価値のある作品だ。
同時にパラダイスでもディトピアでもない日常の延長の向こうにある『攻殻機動隊』は、これまでのシリーズを知らなかった観客にも、新鮮な驚きを与えるに違いない。映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』はこれまでのファンと新たな観客の双方を『攻殻機動隊』に結びつける。それにより数ある日本のマンガ・アニメの海外実写化作品の中で、確かな成功をもたらしている。

ゴースト・イン・ザ・シェル

4月7日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国劇場にて公開
映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』公式サイト
配給:東和ピクチャーズ

【Intoduction】
近未来、脳以外は全身義体の世界最強の少佐(スカーレット・ヨハンソン)は唯一無二の存在。悲惨な事故から命を助けられ、世界を脅かすサイバーテロリストを阻止するために完璧な戦士として生まれ変わった。テロ犯罪は脳をハッキングし操作するという驚異的レベルに到達し、少佐率いるエリート捜査組織・公安9課がサイバーテロ組織と対峙する。捜査を進めるうちに、少佐は自分の記憶が操作されていたことに気づく。自分の命は救われたのではなく、奪われたのだと。―本当の自分は誰なのか?犯人を突き止め、他に犠牲者を出さないためにも少佐は手段を選ばない。全世界で大絶賛されたSF作品の金字塔「攻殻機動隊THE GHOST IN THE SHELL」をハリウッドで実写映画化。

<数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。

(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.