レッスン商法、エキストラ出演の嵐…芸能事務所に惑わされず俳優が成長していくために必要な心がけ

エンタメ

2017/3/15

『俳優の教科書(撮影現場に行く前に鍛えておきたいこと)』(三谷一夫/フィルムアート社)

 現代を生きる若者にとって、芸能事務所を選り好みさえしなければ、俳優として芸能界に入るのは難しいことではない。事務所からすると所属さえさせれば、俳優に能力を磨くためのレッスン費用を払ってもらうことが可能になるからだ。頭数が多ければ多いほど当然、事務所の利益は多くなる。結果、ノーギャラのエキストラ出演しかプロフィールに掲載されていない名ばかりの俳優が増えていく。

 利益優先の一部芸能事務所から搾取されるのではなく、真にクリエイティブの世界から必要とされる俳優になるためにはどうすればいいのか。『俳優の教科書(撮影現場に行く前に鍛えておきたいこと)』(三谷一夫/フィルムアート社)はおそらく日本で初めて、実践的な「俳優としての生き方」を説いた指南書である。ときには芸能界のタブーにすら触れながら綴られる俳優たちへのメッセージは、俳優だけでなく、映画やテレビドラマ、演劇ファンからしてもスリリングに読み進められるだろう。

「俳優とは『センス』ではなく『技術である』」

 それが口癖の著者、三谷一夫氏は株式会社映画24区の代表として、映画製作や演技スクールの運営に取り組んできた。かつてベルリン映画祭で800人の観客とともに言葉も分からない映画への感動を共有したという三谷氏は、それをきっかけに日本からも世界基準の「強い映画」を生み出したいと強く願うようになる。

 そのためには日本の俳優のレベルを底上げすることが必須だった。韓国や台湾を始めとして、同じアジアの映画界が急成長している中、邦画のクオリティーが停滞しているのは俳優のレベルが低いことも大きな要因の一つだと考えるようになったからである。撮影現場やスクールで俳優たちの相談に乗っているうち、三谷氏は彼らの不安の原因に思い当たる。

俳優として習得すべき技術やそれを学ぶための体系だったカリキュラムや、芸能の仕事に就きたい人なら必ず勉強しておかなければならない業界の仕組みやルールなどを教えてくれる学校や本が、現在の日本には存在していないからです。

 そこで本書では、演技論というよりも俳優の心構えについて説かれた内容が大半を占める。中には、多くの若手俳優が正しいと信じて行ってきたことに警鐘を鳴らすような項目もあり、衝撃だ。たとえば、役名もないエキストラ出演の是非についてだ。三谷氏は製作者側の動きを勉強できる場としてエキストラ出演を説明しつつも、「演技が上達することはない」「実績になることはほとんどない」と切り捨てる。流行のテレビドラマに影響を受けやすい俳優たちに釘を刺して、記号のような演技が採用されているテレビドラマを参考にせず、良質な映画を見たほうがいいとアドバイスする。

 俳優の日常生活についても言及されていく。「東京にさえ来れば」「事務所にさえ入れば」と考え、安易な気持ちで上京してくる俳優たちの意識に苦言を呈し、逆に、住む場所など関係なく、事務所からアプローチされるような俳優になることを目指すように勧めるのだ。事務所が所属を望むような俳優になれば、育成やマネジメントでの厚遇が期待できるからである。

 三谷氏が本書で明らかにするのは、「俳優になること」が「芸能事務所に入ること」とイコールになっている日本の問題点である。そんな俳優たちの大半は事務所に言われるがまま気が乗らないオーディションやエキストラ出演を続け、いつしかやりがいを失って挫折していく。自主性を欠いた俳優たちの姿には「どこの現場でも通用する演技力を身につける」という根本が抜け落ちているのだ。

 本書には2018年の大河ドラマで西郷隆盛を演じることになった俳優、鈴木亮平氏との対談も収録されている。鈴木氏は語る。

第一線で活躍する人たちの共通点は、何より芝居が好きということです。

 心から芝居を愛し、演技と向き合い続ける俳優たちが報われるように。三谷氏はスクールに通う俳優たちと芸能事務所の「ドラフト」を企画するなど、今も全身全霊で俳優たちのサポートを続けている。その熱い言葉は、俳優のみならず全ての職業人の心を揺さぶるだろう。

 なお、映画プロデューサーの立場から語る「オーディションで受かる人の傾向」「子役の両親に言いたいこと」は業界の深い部分まで切り込んでいて、必読だ。

文=石塚就一