法律を廃止するときも、法律を作る! 法律が求めるお酒の飲み方とは? 法律って意外とおもしろい

社会

公開日:2017/3/22

『法律って意外とおもしろい 法律トリビア大集合』(第一法規 法律トリビア研究会/第一法規株式会社)

 くだらない瑣末なことや雑学を意味する「トリビア」という言葉が世間に定着したのは、おそらくフジテレビ系列で放送されていた番組『トリビアの泉』の影響だろう。同番組のスーパーバイザーを務めた劇作家の唐沢俊一氏は、この手の知識について自身の著書で「実生活に無用のものであればあるほど純粋におもしろい」と述べているのだが、そこからすると『法律って意外とおもしろい 法律トリビア大集合』(第一法規 法律トリビア研究会/第一法規株式会社)などは、法律という実生活に関わっているものだけに、トリビアとは少し違うのではと思いつつ読んでみた。

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 本書では、法律の条文を記載したあとに「条文をほぐしてみましょう」と分かりやすく解説を入れており、やはり知識として役に立ってしまう。例えば、昨今では飲み会で飲酒を強要することなどをアルコールハラスメント、略してアルハラと呼んで問題視するようになったが、すでに 1961(昭和36)年には法律で「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒について節度を保つように努めなければならない。」と定められているそうで、「へぇ」となった。

 しかし大きな話になると、身近だけど確かに知ったところで役に立たない法律もあった。いや、正確には法律が無かった。それは、日本の首都を東京と定める法律だ。1950(昭和25)年に「首都建設法」という東京都を首都として建設する法律ができたものの1956(昭和31)年には廃止され、現在は「首都圏整備法」により東京都と周辺地域とをあわせて整備していくことになっているらしい。今年の3月にアラブの国王が1000人以上を引き連れて来日した際に、情報番組のコメンテーターが「国王のいるところが首都という考え方がある」というようなことを言っていたが、公用車による温泉地通いで辞任した元東京都知事も「ボクのいるところが東京都だ」くらい言っていれば良かったのかもしれない。

 実は本書を読んでいる間に、こういうくだらないことを何度も考えてしまった。物を輸入する際に掛けられる関税の税率が定められている「関税定率法」の一覧表には、食べ物から宝石や戦車にいたるまで、あらゆる物が載っていて、果物の項目では「メロン(すいかを含む。)」と規定されているというのも、この一文のためにどんな議論が交わされたのかと想像すると興味深い。しかも、その一文の下にはさらに「メロン(すいかを含む。)」とも書かれているというのだから、何故そんなに念押ししているのかと笑いがこみ上げてくる。おそらく、すいかが果物と野菜のどちらなのかという、学術的な分類や市場での扱われ方などをもとに検討する際に、メロンもまた比較対象とされた名残なのだろう。

 つらつらと読んでいるだけでも「へぇ、へぇ」とおもしろいが、こんなふうに本書で紹介されている法律の背景なども想像すると、俄然おもしろさが増す。国の作る決まりに「法律」という名が付けられる前の「太政官布告」と呼ばれていた明治時代の鉄道に関する規定には、車内や線路、駅構内での「砲発ヲ禁ス」とあって、民間人の銃の所持が珍しくなかったのかなと想像してみるという具合だ。

 また、本書によると「法律を廃止するときも法律を作ります」とのことで、その法律には単純に廃止することだけでなく、「廃止した後の色々な手続きなど」についても書かれているという。してみると、小中学校の学習指導要領の改訂案で厩戸王(うまやどのおう)への改称が検討されている聖徳太子が作ったとされる十七条憲法も、廃止の手続きがされていないから現在も存続しているのかしらなどと、また馬鹿なことを考えてしまう。書かれていることだけでなく、書かれていない部分に好奇心が刺激される本でありました。

文=清水銀嶺