料理をしながら科学を楽しく学ぶ! 焼肉だけでもいろいろなことがわかる!?

食・料理

2017/3/26

『実況・料理生物学』(小倉明彦/文藝春秋)

 普段料理をしながら「これは科学だ」などと考える人はあまりいないだろう。しかし、料理を科学として捉えてみるといろいろな発見がある。食材の多くは生物からできているし、調理の過程では様々な化学反応が起こっているからだ。大阪大学の名物講義を書籍化した『実況・料理生物学』(小倉明彦/文藝春秋)を紹介する。

作って食べる理学部の講義

 この本の著者・小倉明彦氏は、1995年まで大阪大学理学部教授、現在は生命機能研究科(主担)と理学研究科(兼担)の教授を務めている。神経生物学を専門とする小倉氏の基礎セミナーとして「料理生物学入門」という名物講義を行っていた。学生と一緒に調理しながら生物学の講義を行い、最後はおいしく食べるという講義だ。大学の講義というとかなり堅苦しいイメージがあるが、この講義はかなり楽しそうだ。

ソーセージ作りで学ぶホットドッグの生物学

 ホットドッグの生物学では、パンではなくソーセージ作りを行った。食品作り際の殺菌方法について学ぶためだ。ハムやソーセージ作りでは食中毒の原因となるボツリヌス菌の増殖を防ぐために硝石を混ぜる。何と、ボツリヌス菌という名前はソーセージ菌という意味で、昔は殺菌がうまくいっていないソーセージで頻繁に食中毒が起こっていたという。硝石から発生する酸素を利用して殺菌をするのだが、同時に発生する亜硝酸イオンと肉の成分であるミオグロビンのヘムが化学反応すると色が鮮やかな赤色になるため、発色剤としても用いられるようになった。しかし、硝酸塩や亜硝酸塩は、食品の成分と反応した際にできるニトロソアミン類に若干の発ガン性が認められるため、食中毒を取るかガンを取るかというような話になるが、結局は色の汚いハムやソーセージには食欲が湧かないという話につながっていく。

 ソーセージ作りには燻製の工程もあるが、この工程も保存のための殺菌が目的だ。とはいえ、燻製は不完全燃焼させた煙でいぶす方法。不完全燃焼の煙にはホルムアルデヒドやメチルアルコール、フェノール、クレゾールなど毒と言ってもいいような体に悪い成分が多く含まれている。つまり、毒を使って菌を殺しているというわけだ。おいしいソーセージを作るために、硝石と煙の二段構えで殺菌をしているのは、羊などの腸に肉を詰めていたから。ただでさえ傷みやすい肉を細菌が豊富な腸の中に詰めるのだから、強い殺菌が必要だったのだ。

辛みは生物学的には味覚ではない

 味には「甘い」「酸っぱい」「塩辛い」「苦い」「旨い」という5種類がある。これらの味の中にピリッとした「辛み」が含まれていないのにはわけがある。先に挙げた5つの味は、舌や口の中の粘膜から大脳皮質の中の味覚野に伝わり、味覚として認識されるのだが、コショウや唐辛子の辛みは、味覚野ではなく同じ大脳皮質にある体性感覚野という場所で処理されるのだ。つまり、痛いというような感覚に近いことになる。唐辛子に含まれるカプサイシンなどの辛みの受容体は、活性化が続くと活性しなくなる性質がある。つまり、辛みを感じなくなるということだ。この点でも辛みが他の味覚とは違い、痛みなどの感覚に違いことがわかる。

焼肉だけでもいろいろなことがわかる

 焼肉を焼く講義を見ていくと、実にいろいろなことがわかる。牛の胃袋4つは、それぞれ役割が違うため、組織の構成もそれぞれ違う。焼けたときの歯ごたえが違うのもそのためだ。肉を焼きながらどれが随意筋でどれが不随意筋なのかという説明をし、ハラミは横隔膜のことだと言いながら食べていた。肉を焼くと色が変わるのはメイラード反応、またはアミノカルボニル反応で、更に茶色くなるのはカラメル反応のため、などという話を見ていくと、実際に肉を焼いて違いを見てみたくなる。

生物学オンリーではない楽しいウンチクの数々

 大阪大学の講義だからもっと生物学オンリーの内容かと思われたが、意外なくらいそうではなかった。例えば、ベーグルがなんであんなにずっしりと重いパンになってしまったかという話や、ホットドッグのもともとの添え物はキャベツでなくピクルスだった話など軽いウンチクも盛りだくさんだ。この本を読んだら、食材を見る目が少し変わったような気がする。食材が元生き物だということがわかると、人間は他の生物の命をもらって食べていることを改めて思い知らされた。

文=大石みずき