眼鏡愛の深さは変態級!? 眼鏡に欲情する美女が店主の眼鏡屋の物語

マンガ

公開日:2017/3/26

『眼鏡橋華子の見立て』(松本救助/講談社)

 眼鏡は本来人間の一部ではないにもかかわらず、普段かけている人を思い出す時、自然とその人の一部になっている。むしろ、普段かけている人が眼鏡をかけていなかったりすると、誰だか分からなかったりもする。眼鏡というのは、それだけかける人と一体化するのだ。そのためか、眼鏡を常時かけている人は、選ぶときそれなりに真剣に悩むと聞く。

 しかし、この『眼鏡橋華子の見立て』(松本救助/講談社)の眼鏡美女・眼鏡橋華子ほどの眼鏡好きは、一体どれくらいいるだろうか? 少なくとも、筆者は見たことがない。この眼鏡橋華子は、銀座の一等地にある眼鏡屋「眼鏡画廊」の店主をしている。ストレートの長い髪に整った顔立ち、服装は和服の彼女は、赤い縁の眼鏡がよく似合うかなりの美女だ。そして、何より誰より眼鏡をこよなく愛している。それはもう、欲情しちゃうくらいに、愛している。

 主人公・川原は、裸眼で2.0の視力を持つ、眼鏡とは縁遠い男。しかしある日、眼鏡をかけたカメラマンの安西と眼鏡屋に取材に行った帰り、華子に突然話しかけられ、名刺を渡された。華子は、なぜか遠くにいたにもかかわらず、安西の眼鏡の度数が合っていないことに気づいて声をかけてきたのだ。どうやって見抜いたのかは全くもって分からないが、それが川原と華子の出会いのきっかけだった。

advertisement

 ひたすら眼鏡のことを話し続け、「欲情してしまいます」なんて言い出す華子に興味を持った川原は、その後も取材のために何度も眼鏡画廊に足を運ぶ。そして会うたびに、彼女の眼鏡への愛、そして眼鏡屋としての想いの強さを感じ、ますます魅かれていく。

 彼女は眼鏡を通して、眼鏡画廊にやってくるお客の心を、求めていることを最大限引き出し、その人にとってベストな眼鏡を選び出す。「お客様の望む世界を見せてあげたい」と仕事に励む彼女は、“人を見る”ということをとても大切にしている。眼鏡に震えるほど欲情し、赤面しながら恍惚の表情を浮かべる彼女が見ているのは、眼鏡の先にいる、“自分が選んだ眼鏡で幸せになってくれた人”なのだ。それでも欲情はどうかとは思うが、そう思うと、彼女がとても魅力的な人にも思えてくる。

 また、彼女の語る眼鏡論は奥深く、いろいろと考えさせられる。人が本当に愛しているものを語る時、名言が生まれるとよく言うが、まさにそれだ。「眼鏡なんて視力が矯正できればいい」「どれも似たようなもので違いが分からない」と思っている人でも、読めば眼鏡の見方が変わってくる。眼鏡を持っている人は、きっと改めて自分の眼鏡を凝視したくなるし、眼鏡を必要としていない人でも、眼鏡屋の前で立ち止まりたくなるはずだ。華子の言葉には、それだけの力がある。

『眼鏡橋華子の見立て』を読んで眼鏡愛について考えていると、眼鏡に限らず、自分が愛着を持って見ているものの多くは、その先にある何か、もしくはその先にいる人を見ているのだと気づく。そしてそれを感じるためには、華子のようにそのものとじっくりと向き合い、思いを馳せ、「これだ!」と思える1つを見つけ出すことが必要なのだ。

文=月乃雫