飯を作るのが上手くてダンディなオジサンが「ヤクザ」だったら…?

マンガ

公開日:2017/4/3

『侠飯(1)』(薩美佑:著、福澤徹三:原著/講談社)

 最近、やたらとオリーブオイルを使う料理系タレントが話題になったが、昔から料理が得意な男というのは割とモテるもの。朝っぱらにフレンチトーストとベーコンエッグを出してやるだけで、感激されてしまうくらいである。ズボラ女子ならずともそういう男となら一緒に暮らしたいかもしれないが、もしそれが「ヤクザ」であったとしても果たしてそう思えるのだろうか。『侠飯(1)』(薩美佑:著、福澤徹三:原著/講談社)は、そんなヤクザと一緒に暮らすこととなった「男子」大学生の日々を描いたコミックだ。

 この漫画は福澤徹三氏による同名小説が原作。主人公の若水良太がヤクザの抗争に巻き込まれ、柳刃組の組長・柳刃竜一に窮地を救われる。その後、警察の捜索を逃れるため柳刃と子分の火野は、良太のアパートに身を隠すことに。ここから大学生とヤクザの奇妙な同居生活が始まる、というストーリーだ。

 この設定だけでも物語としては十分に面白そうだが、タイトルに「飯」が付いているのはダテじゃない。実はこの柳刃、相当な家事の達人だったのだ。良太の部屋に上がるなり、その汚さに閉口。すぐさま火野と共に掃除を始める。洗い物も満足にできない良太に的確な指示を与え、1時間程度で部屋をピカピカにしてしまった。唖然とする良太を尻目に「何か食い物はないか」と尋ねる柳刃。「ない」と答える良太だったが、冷蔵庫を確認した柳刃は食材は十分と判断し、自身が料理を始めるのだった。血なまぐさいヤクザの抗争が始まるのかと思いきや、予想外のグルメ展開なのである。

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 柳刃の作る料理はアイディアの利いたものが多く、一般家庭でも手軽に試せそうな品が揃っている。例えば市販のオイルサーディンを缶ごと直接コンロにかける「オイルサーディンの缶ごと焼き」や、カマボコをたっぷりのバターで炒め、そこに青ネギと玉子を流し入れる「カマバター」など非常に手軽。これは福澤氏が夜の商売をやっていた頃、店で出していた定番メニューなのだとか。いわゆる「酒のツマミ」だ。

 無論、お手軽料理以外にも、本格的な料理が続々と登場。花椒(ホアジャオ)をたっぷり使った「麻婆豆腐」や特売肉をA5肉ばりに美味くする「ビーフステーキ」など、手順もしっかり紹介されているので挑戦しやすい。そんなわけで本書に登場する料理の中から、一品ほど挑戦してみることにした。

【混ぜカレー】


 この料理は外に買い物に行けない状況でレトルトカレーが二人分しかないところを、三人分の料理にしてしまうというものだ。材料は「レトルトカレー2袋」「ウインナー4~5本」「白米茶碗3杯」「玉子3個」「カレー粉少々」「無塩トマトジュース適量」以上である。

 作りかたは簡単で、輪切りにしたウインナーをフライパンに油をひいて炒め、割った玉子をレンジなどで少し温めておく。レトルトカレーをフライパンに入れ、カレー粉とトマトジュースを適量、加える。そこへ白米を入れ、水気がなくなるまで炒める。皿に盛り付け、真ん中をくぼませて玉子の黄身をのせれば完成だ。基本的にはドライカレーかカレーピラフといった趣で、少し辛めに作っても黄身と一緒に食べればマイルドになる。エピソードでは柳刃が「ウスターソースもかけて食ってみろ」といっていたので、そちらも実行。スパイシーさにソースの酸味が加わり、さらにウインナーにもよく合って非常に美味だった。

 漫画では良太が柳刃たちに迷惑そうにしつつも、柳刃の繰り出す美食の数々にどんどん胃袋を掴まれていく。ヤクザはとても怖いけれど、こんなふうに日々、美味しい料理を出してくれるのであれば「一緒に暮らしたい」とつい思ってしまう自分が結構恐ろしい。

文=木谷誠