文芸・カルチャー

全国で感動を呼んだロングセラー! 命を「解く」とき、牛が涙を流した――。絵本『いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日』


『いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日』(坂本義喜/講談社)

 私たちは毎日たくさんの命をいただいている。肉、魚、野菜の命と引き換えに、私たちは生きている。しかし毎日の忙しさに気を取られると、そのありがたみも忘れがちになる。そしてもうひとつ、私たちが食事をするため、生きた動物たちを「解く」仕事をしている人たちがいる。「解く」とは、牛や豚といった動物を殺し、食肉解体作業をすることだ。

 『いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日』(講談社)は、本作品の登場人物である坂本義喜さんが、九州の食肉センターに勤めていたときに起きた実話を絵本にしたもの。坂本さんは牛を解いてお肉にする仕事をしていた。しかし、牛と目が合う度に、「いつか辞めよう、いつか辞めよう」と思っていたという。

 当時小学3年生だった息子の授業参観に行くことになった坂本さん。授業の内容は、社会科の「いろんな仕事」だった。先生が生徒に「お父さん、お母さんの仕事を知っていますか?」と尋ねていく。しのぶくんの番になり、しのぶくんは小さな声で「肉屋です。ふつうの肉屋です」と答えた。坂本さんは「そうかぁ」とつぶやいた。

 坂本さんが家に帰って新聞を読んでいると、しのぶくんが学校から帰ってきた。そして「お父さんが仕事ばせんと、みんながお肉ば食べれんとやね」と言い出した。急にどうしたのだろうか。実は学校の帰り際、担任の先生がしのぶくんを呼び止めてこう言ったのだ。

「坂本、おまえのお父さんが仕事ばせんと、先生も、坂本も、校長先生も、会社の社長さんも肉ば食べれんとぞ。すごか仕事ぞ」

 しのぶくんの言葉を聞いて、坂本さんはもう少し仕事を続けようと思ったそうだ。

 別の日、坂本さんが事務所で休んでいると、一台のトラックが食肉センターの門をくぐった。すると、助手席から10歳くらいの女の子が飛び降り、牛のいるトラックの荷台に上がっていった。

「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃんが肉にならんと、お正月がこんて、じいちゃんのいわすけん。みいちゃんば売らんとみんながくらせんけん。ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ」。

 そう言いながら女の子は一生懸命に牛のお腹をさすっていた。この光景を見て坂本さんは「この仕事は辞めよう。もうできん」と思った。そして「みいちゃん」を解くことになる明日の仕事を休むことに決めたのだが――。

「お父さん、やっぱりお父さんがしてやったほうがよかよ。心のなか人がしたら、牛が苦しむけん。お父さんがしてやんなっせ」

 しのぶくんに説得され坂本さんは「みいちゃん」の命を解くのに重い気持ちで会社に向かった。

 そして、坂本さんがみいちゃんの命を解くそのとき、牛が、みいちゃんが、涙を流したのだ。その描写をぜひ本作品で見てほしい。命の重さを、それを描いた絵本を、ぜひ読んでほしい。

 私たちの知らないところで毎日命と向き合っている人がいる。その人たちのおかげで私たちは今日も「いただきます」が言える。私たちの知らない誰かが今日も頑張ることで、私たちの今日が成り立っていることを忘れてはならない。

文=いのうえゆきひろ



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