最果タヒ、最新作で17歳の少女の半径3メートルの等身大の世界を描く!『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

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更新日:2017/4/6

半径三メートルの「近景」を描く

 三井を巻きこんでカジュアルな家出をたくらんだ和葉に、和解の時が訪れる。兄と和解し、初岡の本当の姿をかいま見た和葉の中で何かが少しずつ変わっていく。初岡の「あのさ、死なないでね」という言葉に、和葉は「大丈夫だよ」と返す。

「それまでの和葉だったら『死なないでね』と言われたら『えっ』と思ったはずなんです。初岡が本当に心配していることがわかったから『大丈夫だよ』と返事をした。お兄ちゃんや三井とのコミュニケーションによって、そういう受け応えができるようになった。それが彼女の成長だと私は思います」

 最果さんの詩と小説は、半径三メートルの世界と広大な宇宙を相互接続するダイナミズムに満ちている。ミクロとマクロ、近景と遠景を串刺しにする世界造形こそが最果タヒの作品世界の中心にあった。この作品で最果さんが挑戦したのは、十七歳の少女の半径三メートルの等身大の世界の描写だ。

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「一度そこをじっくり丁寧にやりたい気持ちがありました。近景と遠景、確かにそうですね。遠景を書くのは好きですが、和葉のモノローグを突きつめていくうちに、内側へ内側へと入りこんでいったことが大きいです。人の思考回路を言葉にするのはどういうことなんだろうと考えたことも近景重視の作品になった理由かもしれません。彼女の奥底にある感覚を、できるかぎりそのままで文体にしたい。彼女の内側に集中していく過程で、外側の設定に対するこだわりがなくなっていきました。思考でも感情でもない、言葉になる前の彼女の生々しい感覚が、読む人の前にあらわれてくれたらいいなと思います」

取材・文=榎本正樹 写真=首藤幹夫

 

紙『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

最果タヒ 文藝春秋 1200円(税別)

唐坂和葉は十七歳の高校二年生。同級生に告白するも、いい加減な返答に逆ギレして発言撤回。同じクラスのヘッドフォン女子、初岡を巻きこんで奇妙な三人関係を形成していく。さらに大学生の兄たち三人組との関わりが、彼女を書き換えていく。「いま」をサバイバルする女子高生の二日間の物語。