亀梨和也主演ドラマ化「怪盗探偵山猫」の原作を手掛けた、人気作家最新刊『心霊探偵八雲10 魂の道標』【神永 学インタビュー】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

 幽霊が見える大学生・斉藤八雲が、心霊事件を解決してゆくスピリチュアル・ミステリー「心霊探偵八雲」。
その5年ぶりとなるシリーズ最新刊『心霊探偵八雲10 魂の道標』が発売された。世代を超えて愛されるその作品の魅力はどこにあるのか。デビュー以来、「八雲」とともに歩んできた神永さんにインタビューした。

前作の事件で左眼に傷を負い、幽霊を見る力を失った八雲の心は揺れる。その頃、後藤は僧侶の英心とともに、都内のマンションでポルターガイストらしき怪現象に遭遇。新聞記者の真琴も旧知のカメラマンから心霊写真にまつわる相談を受けていた。マンションを舞台に次々と巻き起こる怪現象に八雲抜きでどう立ち向かう? クライマックスに差しかかり、ますます加速する超人気シリーズの最新作。

かみなが・まなぶ●1974年、山梨県生まれ。2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』でプロデビュー。同作から始まる「心霊探偵八雲」シリーズで絶大な人気を博す。他にも「怪盗探偵山猫」「確率捜査官 御子柴岳人」「天命探偵」「殺生伝」「浮雲心霊奇譚」など多くのシリーズを手がける。

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ミステリー+心霊という禁じ手を、あえてやろうと思ったんです。

「怪盗探偵山猫」や「天命探偵」など数多くの人気シリーズを手がける売れっ子作家・神永学さん。しかしその代表作といえば何といっても、デビュー以来約13年にわたって書き継がれているハイスピード・スピリチュアル・ミステリー「心霊探偵八雲」だろう。

ミステリーに“心霊”という要素をプラスして大成功をおさめたこの作品。実は神永さんが生まれて初めて創作したミステリーだった、というのはファンにも意外な事実かもしれない。記念すべきシリーズ10作目、外伝も含めると通算15冊目にあたる最新作『心霊探偵八雲10 魂の道標』が刊行されたのを機に、「八雲」誕生の背景をあらためてふり返っていただいた。

「デビュー前は今とかなり違うタイプの小説を書いていました。自殺した兄の心理を弟が探っていく話とか、暗いものが多かったですね(笑)。文学賞に投稿していたんですが選考に残らなくて、半ばやけくそでミステリーに挑戦してみようと思ったんです。ミステリーは手強いライバルがたくさんいるジャンルなので、心霊という要素を加えて、独自性を出すことにしました。ミステリーに幽霊を出すのは反則と言われていますが、あえて禁じ手を選ぶことで、自分らしさが表現できるんじゃないかと考えたんです」

読者としては本格ミステリーやハードボイルドなど、さまざまなミステリーに親しんでいたという神永さん。自らの作品では、本格ミステリーのパズル的面白さとはあえて違うポイントを攻めることにした。

「トリックでは既存の作家さんに敵わないので、自分はもっと登場人物の感情に寄り添ったエンターテインメントを書こうと思いました。念頭に置いていたのは、松本清張さんの社会派ミステリーですね。『砂の器』にしても『点と線』にしても犯人はすぐに分かるんですが、なぜその罪を犯したのかという動機の部分に深い感動があります。ああいう種類のミステリーを目指したんです」

こうして生まれた2004年刊のプロデビュー作品『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』は口コミで評判を呼び、人気シリーズへと成長してゆく。これまでのシリーズ累計部数は実に650万部超。2度のコミカライズに加え、テレビアニメ化、舞台化もされており、まさに多彩な神永ワールドの代名詞ともいえる作品だ。では、その魅力はどこにあるのか?

主人公の大学生・斉藤八雲は、幽霊を見ることができる赤い左眼の持ち主。そのため実の母親をはじめとする人々から気味悪がられ、孤独な人生を歩んできた。陰影に富んだ八雲のキャラクターを作り出すうえで、神永さんがヒントにしたのは“八雲”の名を持つ実在の文学者だったそうだ。

「当時ちょうど小泉八雲さんの本を読んでいたんです。小泉八雲は生涯、左目の写った写真をほとんど撮らせなかった。左目を失明していたからだ、というのが通説ですが、ひょっとすると彼の左目には人には見えない何かが見えていたんじゃないか、と想像したんです。だからこそ『怪談』のような不思議な作品を書くことができたんじゃないか、と。そこから死者の魂が見える左眼を持った、八雲というキャラクターが生まれてきました」

同じ大学に通うヒロインの晴香や、刑事の後藤と石井のコンビ、新聞記者の真琴らが持ちこむ事件を、八雲は特異体質と推理力を武器に解決してゆく。幽霊が出てくるミステリーといえばファンタジックなものを想像しがちだが、このシリーズの手触りはあくまでリアル。八雲も決して万能のヒーローではないところに特色がある。

「この作品における幽霊は人の思いの塊で、物理的な影響を及ぼすことがありません。幽霊が出てくるからといって“何でもあり”にしてしまうと、逆に面白くなくなると思うんですよ。八雲が左眼で幽霊が見えるのも、レンズに特殊なフィルターがついていて、人よりも広い範囲を知覚できているという理屈です。単なる体質なので霊能者のように除霊することはできない。僕が描きたいのはあくまで事件を通して揺れ動く人の感情なので、超能力バトルのような設定や展開は必要ないんです」

基本的には1巻完結のスタイルをとっている「八雲」シリーズだが、巻を重ねるにつれて物語に大きなうねりが生まれてきた。いくつもの事件の陰に見え隠れする、八雲の父・両眼の赤い男の不気味な存在。両眼の赤い男と深い関係を持ち、八雲たちをつけ狙う七瀬美雪の邪悪なたくらみ──。事件を乗り越えるたび、着実に成長してゆくレギュラー陣の姿も見逃せない。

「そもそもこのシリーズは、八雲という青年の成長物語なんです。しいたげられ、心を閉ざして生きてきた青年が、価値を認めてくれるヒロインと出会うことで変わってゆく。昔ながらのボーイ・ミーツ・ガールですよね。想定外だったのは、石井や真琴といったサブキャラクターまでもが大きく成長したこと。結局、人間はひとりの力では変われないし、その変化は相互に影響を与え合うものなんでしょうね。結果どんどん長くなってしまって(笑)。当初は3巻で終わらせるつもりが、10巻を超えてもまだ終わっていません」

キャラクターのセリフや心情が、自然と溢れ出てきた。

個性的なキャラクターが登場する本シリーズは、いわゆるキャラクターノベルに分類されることが多い。しかし神永さん自身はことさらキャラを立てようと意識しているわけではないという。

「どのキャラも変わり者は変わり者ですけどね(笑)。狙って個性を際だたせているわけではありません。八雲の性格にしても、赤い眼を持って生まれて、ああいう環境に育ったらどんな大学生になるかな、というバックボーンから考えていったものです。こうすれば受けがいいだろう、という狙った書き方をすると、読者は鋭いのですぐにばれるんですよ。このシリーズを長年追ってくれている読者にとって、八雲や晴香は“親戚の子供”みたいな存在。アイコンとしてのキャラではなく、成長してゆく人格として、見守ってもらえているんだと思います」

このほど5年ぶりに刊行されたシリーズ第10作『魂の道標』では、八雲が大きな運命の岐路に立たされる。前作の事件で左眼に傷を負い、霊を見る力を失ってしまうのだ。「これで、もう嫌なものを見なくて済む」と口にする八雲の心は、解放と喪失のはざまで揺れ動く。ショッキングな展開について、神永さんはこう語った。

「これまでの物語を通して、八雲は自分と自分の周囲を少しずつ認められるようになってきました。でも、すべての元凶である赤い左眼については、正面から向き合うのを避けてきた。それは忌まわしい過去と関わっているので、八雲にとっても恐怖なんです。でもそれを避けていては、前に進むことはできない。その時、支えになってくれるのはやはり晴香の存在です。タイトルにある『道標』とは、八雲にとっての晴香であり、いつか通らなくてはいけない試練のことなんです」

今回、心霊現象が起きるのは東京都内のマンション。調査依頼を受けた後藤と僧侶の英心は、部屋の写真立てがひとりでに倒れるなどのポルターガイスト現象を目の当たりにする。その頃、真琴は旧知のカメラマンから自宅で撮影した心霊写真について相談を受けていた。八雲の左眼なしで、おなじみのメンバーは難局をどう乗り越えるのか? そして苦悩の果てに八雲がたどり着いた答えとは? サスペンスフルなストーリーとキャラクターの葛藤が絡み合い「これぞ八雲!」という充実した作品に仕上がっている。

「とにかく書いていて楽しい作品でした。スケジュール的にはぎりぎりだったんですけど、心のどこかで“八雲なら間に合うだろう”という安心感がありました。実際、プロットは2、3日で完成しましたし、原稿に入ってからも迷うことが一切なくて。キャラクターが血肉になっているので、セリフや感情が自然と溢れてくるんです。そこはデビュー以来、彼らとつき合ってきた強みですね」

シリーズもいよいよ佳境に入り、物語のラストでは八雲と晴香の関係にもささやかな変化が訪れた。そしてある人物の口からは、あまりにも不吉な犯罪予告が! ファンとしては続きが気になって仕方ない展開だ。

「あそこで終わるなと怒られそうです(笑)。せっかくシリーズものを書いているので、続きが待ちきれないという感覚をできるだけ読者に味わってもらいたいと思います。ラストまでの展開はほぼ決まっています。さすがに次は5年も開くことはないと思うので、安心して待っていてください」

シリーズ本編と併行して、神永さんはこれまで外伝にあたる「ANOTHER FILES」も意欲的に発表している。こちらは1巻読み切りで、八雲のスマートな活躍を堪能できるシリーズ。この2月にも学園祭と恋にまつわる連作短編集『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 亡霊の願い』を刊行したばかりだ。

「外伝では5巻までの時間の流れの中で、本編では描かれなかったエピソードを取り上げています。6巻以降は物語が大きく動くので、気楽に読める外伝を書くには5巻までがしっくりくるんです。外伝ではまだ八雲と晴香の関係もはっきりしていません。初々しい距離感が好きな方には喜んでいただけるのではないかと思っています。本編ではなかなか深く掘り下げられない石井などの脇役にスポットを当てられるのも、書いていて楽しいところですね」

デビュー以来、一度もスランプを体験したことがないという神永さん。「アイデアを出していないと気持ちが悪いんです」と語る根っからの物語作者だが、その底には読者を楽しませたい、という強い思いがある。

「どうしてこんなに小説を書いているかというと、自分が書きたいのが一番ですが、やっぱり読者に楽しんでもらいたいんですよね。僕の中では小説はゲームやマンガと同列。よく『読んでおくべき本はありますか?』と質問されますが、そんな本は一冊もありません。読書は勉強じゃない。単純に面白いから読むんです。デビュー作の『八雲』を読者が支えてくれたことは、僕にとって大きな勲章。とっても嬉しいことなんです」

今年5月には舞台版『心霊探偵八雲 裁きの塔』の上演が決定するなど、ますます盛り上がりを見せる「心霊探偵八雲」シリーズ。完結がついに視野に入ってきた今だからこそ、これまで手にするチャンスがなかったという人も、大興奮の作品世界を体験してみてほしい。

「最近は親子でサイン会に来てくださる方や、結婚出産を経てまた読み出しました、という方がいて、長く書き続けてきて本当によかったなと思います。『八雲』は僕にとってライフワーク的な作品。今後完結することがあっても、完全に縁が切れることはないような気がする。きっと何らかの形で、ずっと八雲たちと関わりを持つことになるんでしょうね」

シリーズ本編

死者の魂を見ることができる大学生・斉藤八雲が、次々と巻き起こる怪事件の真相に迫る。テレビアニメ化もされた人気のハイスピード・スピリチュアル・ミステリー。

『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』書影

『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』
角川文庫 552円(税別)

肝試しに行って以来、熱を出して眠り込んでいる友人を救うため、大学生の小沢晴香は八雲のもとを訪ねた。先輩の話では彼には不思議な力があるという。八雲と晴香の出会いと3つの幽霊事件を描いたシリーズ第1作。

警察署長の娘で新聞記者の土方真琴が霊にとり憑かれた。解決を命じられた刑事・後藤は八雲に相談を持ちかける。一方、世間では不可解な連続少女誘拐殺人事件が発生。いくつもの謎が絡み合うシリーズ初の長編。

飛び降り自殺をくり返す女の幽霊。その謎を解き明かすため現場のマンションに足を運んだ八雲と晴香は、霊が見えるという男・神山に出会う。果たしてその能力は本物か。やがて事件に隠された悲しい真相が明らかに。

教育実習のためとある小学校にやってきた晴香は、幽霊が見えるためにいじめにあっている少年・真人と知り合う。その頃、後藤は鑑定中に逃走した殺人事件の容疑者を追っていた。八雲と真人の交流が印象的な第4作。

15年前に発生しいまだ犯人が捕まっていない一家惨殺事件。その現場でテレビクルーが恐ろしい幽霊をカメラにとらえた。だが映像を目にした直後、八雲が忽然と姿を消してしまい……。晴香の懸命の捜索が始まった!

数多くの事件に関与し、ついに逮捕された七瀬美雪が後藤に面会を求めてきた。彼女は拘置所から八雲の叔父・斉藤一心を殺害すると予告する。そんなことが可能なのか――。衝撃の展開が待ち受ける。

長野の小学校に転校していた真人が晴香に救いを求めてきた。クラスメイトが神隠しに遭い行方不明だというのだ。鬼の伝説で知られる信州・鬼無里に向かった八雲と晴香は、そこで封印された恐ろしい過去に直面する。

西多摩の鍾乳洞でめった刺しにされた男の遺体が発見された。現場から逃げ去ったのはなんと八雲!? 晴香はその直前まで彼がある心霊事件の調査に関わっていたことを知る。記憶を失った八雲に絶体絶命の危機が迫る!

八雲の前に高校時代の同級生の妹・優花の生霊が現れる。彼女は強盗に襲われ集中治療室に入院中だった。一方、警察を辞めて心霊専門の探偵となった後藤は、青木ヶ原樹海にまつわる不気味な事件の相談を受けていた。

シリーズ外伝

シリーズ本編では描かれなかった事件の数々。人気キャラの意外な一面やプライベートに触れられる、前日談&シリーズ外伝をご紹介!

赤い左眼と特異な体質のために気味悪がられ、クラスでのけ者になっている八雲。担任教師の高岸明美はそんな彼の孤独に寄り添おうとするが……。少年時代の八雲が最初に関わった事件を描くファン必読の中学生編。

夜の神社で恋人と待ち合わせた麻衣は耳もとで「殺してやる」という声を聞く。その神社の境内には呪いの噂がある大木がそびえていた。一話完結でどこからでも楽しめる「ANOTHER FILES」編、ここに開幕。

悪霊が殺人予告? 捜査を命じられた後藤は警察OBの孫・貴俊のもとを訪ねた。意外な場所でかつての相棒と再会した後藤は、奇怪な密室殺人に遭遇。真実を映すという泉をめぐり、切なく衝撃的な事件が描かれる。

八雲と晴香が通うキャンパスの中心にそびえる古い時計塔。恐ろしい噂が囁かれるその塔の前で女学生が殺された。容疑者として逮捕されたのは彼女から相談を受けていた晴香。予想外の展開に八雲の心は大きく揺れる。

演劇サークルのリハーサル中に起こる怪奇現象、幽霊につきまとわれて悩んでいる男、見たら幽霊が現れるという自主制作ホラー映画。大学で起こる3つの難事件に八雲が挑む。「八雲」初心者におすすめの連作短編集。

取材・文=朝宮運河 写真=川口宗道

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