読んだあとに、その映画が観たくなる! 批評自体が作品として楽しめる、批評エンタテインメント!!

エンタメ

公開日:2017/4/7

『それが映画をダメにする』(前田有一/玄光社)

 どこの誰が言い出したのか、他人と「政治と宗教と野球の話はするな」という言葉がある。無用の争いを招くからというのが理由のようだが、私としては映画も加えたい。『スター・ウォーズ』のエピソード1から3を観て、うっかり友人のファンに「どこが面白いのか分からない」と言ったら、公開順に4から観ないのがいけないと、3時間くらい懇々と説教された。

 そういう点からすれば、『それが映画をダメにする』(前田有一/玄光社)の映画評は、私の感想とは多くが相容れない。なにしろ、目次には取り上げている各映画作品のタイトルに○×が記してあるのだが、私のお気に入り作品にばかり×がついているのだ。しかし、それでも面白く読めたのは、著者の映画評自体が一種の芸になっているからだろう。

 著者による映画へのダメ出しは、快刀乱麻を断つ如くズバッと切り込んでいて爽快だ。そのうえ、返す刀で改善点をも切り出してみせる腕達者。時代劇ではないものの、秀吉が唯一落とせなかったとされる忍城(おしじょう)攻防戦を描いた『のぼうの城』では、役者陣に「時代劇の所作事を身に着けた者がいない」から「チープなコスプレ侍に見えてしまう」と著者は喝破する。そのうえ、壮大な水攻めが見せ場とはいえ、城のオープンセットにお金をかけた故なのか、「同じ場所をウロウロする似たような絵ばかり」なためリアリティが感じられなくなってしまったと著者は評し、時代劇専門チャンネル(CS放送)で正月用に制作された単発のテレビ時代劇『鬼平外伝 正月四日の客』を手本に推す。

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 著者が「火の鳥墜落の大惨事」と評する『ガッチャマン』は私も同意で、観に行ってしまったのは事故現場を見てみたい野次馬根性だった。原作である『科学忍者隊ガッチャマン』のファンはM2層(35-49歳男性)が想定されるのに対して、キャスティングは松坂桃李や剛力彩芽といった、当時はまだ人気も知名度も今ほど高くはない若手ばかりで、内容は「原作にはない彼らのラブラブ三角関係ドラマ」なものだから、原作ファンからも役者のファンからもソッポを向かれ、「製作委員会方式のデメリットがもろに出た」と著者は指摘する。

 映画をダメにするのは日本だけでなく、アカデミー賞が「国際映画祭ではない」ばかりか、「厳正な審査員によって選ばれているわけではない」ただの「米映画業界の内輪の功労賞」だと著者はバッサリ切り捨てている。そんな業界の中にあるハリウッドでは、旧作でアメリカを襲う敵をソ連としていた『レッド・ドーン』のリメイク作品が、シナリオ段階ではソ連を中国に置き換えておきながら、撮影後に北朝鮮へと差し替えたそうだ。ハリウッドにおけるチャイナマネーに配慮した結果で、「国ごと木端微塵にされるのがオチ」としか思えない相手を敵に変更してしまうような、「へっぴり腰で傑作が生まれるはずもない」という著者の言は頷ける。

 しかし、である。『のぼうの城』の問題点は承知のうえで私は愉しめたし、『ガッチャマン』は製作者の意図とは違うところで、大いに笑わせてもらったから駄作が悪いとも思えない。鍔迫り合いは刃と刃を切り結ぶことではなく、柄を握る手を守るための鍔と鍔で押し合うことだそうだが、もとより議論は相手を切り伏せるのが目的ではない。ならば、はなから議論をしないというのは新たな見識を得る可能性からしたら勿体無い話で、相手に礼を尽くし、引き際を弁えたうえで、大いに議論をするのは悪くなかろう。

 さて、そうなると『スター・ウォーズ』のエピソード4を観てみたものの、やっぱりどこが面白いのか分からなかったのが残念でならない。いっそ、友人のファンに横で講釈してもらいながら観てみようか。ううむ、ダメな観客でごめんなさい。

文=清水銀嶺