フランス人はケチ?合理的? 徹底してお金を使わないのに心豊かに暮らす生活の知恵

暮らし

公開日:2017/4/12

『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(吉村葉子/主婦の友社)

 子どものころ、持ち物に対してもっと思い入れがあった。どうしてもほしいのにお金がなくて、何度も諦めようとしても諦めきれず、頑張ってお金を貯めて買ったり、親に頼み込んで買ってもらったり……。そうして手に入れたものは、ぬいぐるみでも本でもCDでも食器でも、目にするたびに嬉しくて何度も手に取り、手入れをしながら大切にしたものだ。

 でも、大人になって自由に使えるお金が増え、たくさんのものに囲まれて生活しているうちに、ひとつずつのものに対して思い入れが減ってしまったな……そんなことをふと考えていたとき、ある一冊に出会った。それは日仏の比較を通して快適なライフスタイルを提唱する、吉村葉子さんによるエッセイ『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(主婦の友社)である。

 約20年間、パリで暮らした経験をもとに吉村さんが語るのは、日本で暮らす私たちでも試せるような「快適な暮らしのコツ」。このジャンルにありがちな「フランス人を見習ってこうしなさい」「フランス人はこうだから素敵だけど、日本人はこうだからダメ」というような説教くささはまるでない。日本で生まれ育った著者が、パリでの生活を通して素直に「いいな」と感じたフランス人の考え方、工夫のこらし方、暮らし方を、優しい言葉で伝えてくれる。

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 それはたとえば、ベランダで朝食をとって気分を上げること。ワインをデカンタに移し替えて、よりおいしく飲むこと。手作りの簡単なブーケをプレゼントすること。おもてなしにも使える、クレープの作り方。カーテンのタッセルを変えるだけで、部屋の雰囲気が変わること……。日本で暮らす私たちでも試せるような暮らしのティップスが満載だ。


 本書のなかで、吉村さんはフランス人の暮らし方についてこう語る。

「フランス人はそろいもそろって大の演出上手でした。発想が柔軟で、些細なことでも億劫がらずに、ベターをめざして工夫をします。技術革新も大事ですが、それよりも先に私たちに大切なのは、日々の生活を楽しむために知恵を使うことではないか、としみじみ思いました」

 読み始める前は「ひと手間をかけた生活って素敵だけど、忙しいし、どうせ真似できないだろうな」と、ハードルの高さを案じる人も多いだろう。しかし読み進めるうちに、提唱されている暮らし方は、単に「手作り生活ってオシャレ!」という感覚からのものではなく、できるだけお金をかけずに人生を豊かに過ごしたいという、フランス人の強い願いが込められているのだとわかってくる。

「(フランス人は)金銭感覚が、日本人とは決定的に違うのです。お金は欲しいものを買うためにあると思っている私たちと違って、フランス人は食べるもの以外はそもそも買いたくない。自分のお財布からお金を出すのが、心底いやなんです」

「フランス人の日常をつぶさに眺めていると、随所に受け継がれる合理性のDNAを感じます。お金も時間も、省けるところは省くことが日々の生活で徹底しています。それがお菓子作りにも反映されていて、『心を込めて』とか『手間をかけて』は、美徳になりません」

 本書を読んで「フランス人を真似しなさい」という押しつけがましさを感じないのは、生活を豊かにするさまざまなアイデアが、合理主義から生まれる創意工夫だからかもしれない。第一の目的はオシャレではなく、あくまで「節約」にあり、その結果として自分らしい工夫をこらした部屋づくりや料理、インテリア、ライフスタイルにつながっているとわかると、すとんと腹に落ちてくる。素直に真似してみたくなる。

 お金をかけたくないから、少ないものを工夫して豊かに暮らすフランス人を通して、わが身を振り返る。たくさんのものに囲まれているのに、ひとつひとつのものに対する思い入れを失って、自ら生活を味気ないものにしてしまっていたことに気づかされる。吉村さんが提案する、フランス人の創意工夫を取り入れてみることで、今よりずっと心豊かな家庭生活を送れるのではないか……そんな期待に胸が躍る。


 なお、本書では吉村さんが20年の間に得た、数々のフランス料理やスイーツのレシピや作り方のコツも掲載されている。それらのなんともおいしそうなこと! 牛肉の赤ワイン煮を美しいルビー色に仕上げる秘訣や、野菜をたっぷり使った作り置き料理、フランス人が大好きなガトーショコラなど、一見難しそうな料理も簡単においしく仕上げるコツが満載。お会いしたことはないが、吉村さんが「うふふ」と楽しそうにフランス人を眺めながら書いている姿が想像できる。思わず笑顔になれる一冊だ。

文=富永明子