福岡の人気書店店主から学ぶ、偶然をつかみとる仕事の流儀

ビジネス

2017/4/13

『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』(大井実/晶文社)

 「町の人々から愛されている」というキャッチフレーズがぴったりな、福岡市内に二箇所店舗を構える書店・ブックスキューブリック。一号店の店内は十五坪(駐車スペースで四台分ほど)。

場所を示すときは、「そっち」「こっち」という言葉でじゅうぶんなスペースで、「この本は……あっちのほうにありますね」と、店員さんが口にする機会はあまりないでしょう。

 開店から十五年の濃密な歴史が記された『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』(大井実/晶文社)の中で、店の「小ささ」が生むメリットについて著者で同店店主の大井実さんはこう語っています。

たしかに、大型書店に行けば、全てのジャンルが豊富に揃っているが、忙しくて時間のない社会人にとっては、全ての売場をチェックするのは難しい。15坪という狭さのブックスキューブリックだったら、数分で店内を見て回ることができる。各ジャンルの本がひと通りあって、その上でひっかかってくる本がある。自分が想定していなかった本と新しく出会える可能性も広がる。

 大きな書店のように書籍・文庫・雑誌などというエリア分けの中でさらにジャンルが細分化されていくような陳列のしかたではなく、ジャンルを飛び越えた独自の関連性を以って商品を展開する。題名にも「である」と入っていますが、小さな店舗で置ける冊数が限られるゆえに、本一冊一冊を「本である」と取り扱ってじっくりと接する時間を大きな書店より多く持てることが武器となります。

純粋な「知識としての記憶」だけではだめで、確実に記憶するためには、個人の体験に根ざした「エピソードとしての記憶」を補完する必要がある。

 ブックデザイナー(装丁家)から聞いたという言葉を借りて語られている通り、ブックスキューブリックの店内は何かしらのエピソードをつかめそうなワクワク感に満ちています。共有したいイメージで空間を装飾し、来客者に言葉を使わず語りかけることで、独自の体験や出会いの可能性を生み出す。39歳でそうしたスタンスの書店を開いた大井さんが過去を振り返る中には、やはり「偶然」「運命」という言葉がちらつきます。

 イベント業界に就職した後、思い立ってイタリアへ渡航。ファッションショーや現代美術の展覧会の企画・制作に携わった後で、どうしても本屋が開きたいと思い、少年時代を過ごした福岡へ。書店で二年間アルバイトをしてから、自分のお店を開きました。

 人と人が出会うように、人と本もまた出会うものです。「本を買いに行く」という目的をただ果たしに行く場所ではなく、何かを体験できる場所が書店だというブックスキューブリックの哲学は、書店以外の小商いを志す人にとっても多くの気付きをもたらしてくれます。

 腕を組んだり、足をクロスさせたり、首をかしげたり、そうかと思えば一瞬で目当ての本を取っていったり……人が書棚と向き合う姿勢は様々です。いかなる形であれ、本に手が伸びる瞬間、それは運命をつかみ取ろうとしているのかもしれないと思わせてくれるエピソードの数々。本に人生を変えられた方、好きなことを突き詰めて生きていきたいと思っている方にオススメの一冊です。

文=神保慶政