“文春砲”誕生の瞬間! 「ゲス不倫」「甘利大臣収賄事件」の裏側とは?

社会

公開日:2017/4/14

『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?(角川新書)』(週刊文春編集部/KADOKAWA)

 文春砲――昨年、一度は聞いたことがあるだろう流行語だ。『週刊文春』がスキャンダル処女・ベッキーの不倫劇を報じたかと思えば、現役閣僚・甘利明の収賄を明るみに出した。他にも酒鬼薔薇事件の犯人・少年Aへの直撃取材、舛添元都知事の公私混同問題、そしてショーンK氏の経歴詐称問題など、どれもまだ記憶に新しいものばかり。

 当然、これらの「スクープ」は一朝一夕で見つけることはできない。だからこそ「なぜ文春はこんなにもスクープを連発できるのか」という疑問を抱くものだ。疑問の答えを考える上で大きな鍵となるのは、どうやってネタを見つけ、裏付けをとったのかということだろう。そんな普通であれば見ることが叶わない“スクープの裏側”を綴っているのが『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?(角川新書)』(週刊文春編集部/KADOKAWA)だ。本書は『週刊文春』の編集長・デスクが再現ドキュメントと解説を用いて、どのようなやり取りがあったのかを詳細に記している。

 例えば、ベッキー・川谷絵音の「ゲス不倫」。二人の「卒論」「センテンススプリング」といったLINEメッセージや、ベッキーからの手紙を掲載するなど話題に。本書では、川谷の実家である長崎で二人に直撃インタビューを敢行するまでが記載されている。まだ経験が浅い記者が二人をロスト(見失う)してしまうトラブル。その失敗を取り戻すべく、あらゆる関係者の証言から二人が訪れる場所を推理、見事に的中させるも、再びロストする。まるで犯人を追い詰める警察小説を読んでいるかのような緊迫感が伝わってきた。最終的に、実家前で二人の証言を得ることに成功するのだが、そこまでの一筋縄ではいかない道のりは、それだけでも読み物として十分楽しめる。

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 そして、もう一つ神戸連続児童殺傷事件の元少年Aへの直撃について。こちらは取材開始から250日にも及ぶ長期戦。直撃取材も5日間、元少年Aの自宅前を張り込む。6日目に元少年Aに動きがあり、ついに接触することに成功。声をかけても「知らない」「違う」の一点張り。記者があきらめ名刺等を渡そうとした瞬間、記者に「命がけで来てんだろ、お前。顔覚えたぞ!」と怒鳴りちらす。身の危険を感じた記者たちは元少年Aから離れ、逃げ出すも1キロにわたって追いかけられたという。その時の恐怖を「その筋の人に追いかけられたり、怒鳴られたりしたことはある。でも、そういうのと質の違う恐怖」と語っていた。

 このような地道で、時に危険を冒しながら手に入れたスクープは、記者たちの汗と涙の結晶であることは間違いない。しかし、本書を読み記者だけの力だけではないことを感じた。『週刊文春』に求められているもの、『週刊文春』にしかできないことは「スクープにとことんこだわる」こと。そう考え、部下を叱咤激励する編集長・新谷氏の姿に、現場の記者は大いに勇気づけられただろう。このことも大きな要因の一つに違いない。シンプルな答えにこだわり、チームでそれを実行する。私たちも仕事・日常の中で取り入れることができるのではないだろうか。

文=冴島友貴