もしも平家が壇ノ浦の戦いで勝利していたら――?不死の鬼人と不治の姫が出会う時、新しい源平の歴史が始まる異色のデス・マンガ!

マンガ

更新日:2017/5/8

『うらたろう』(中山敦支/集英社)

 独特の世界観にハマる人続出中の『うらたろう』(中山敦支/集英社)はもう読んだだろうか? 『ねじまきカギュー』で一躍有名になった中山敦支先生の最新作だ。

 舞台は壇ノ浦の戦いで平家が勝利し、源平合戦は平家の逆転勝利として幕を閉じた後の、パラレル鎌倉時代。現代よりも夜が暗い、妖魔もはびこる日本列島。

 本作は一人の少女が「不死の鬼人」と出会うところから物語が始まる。

advertisement

 少女の名前は平千代(たいら・ちよ)。日本を治める平家の姫。彼女は「16歳で必ず死ぬ」という不治の病――もとい、ある「呪い」にかかっていた。残された時間はあと、1年。しかし、生きる続けることを強く望む彼女は、不死を求め、伝説の「不死の鬼人」を探す旅に出た。

 そして出会ったのが「不死の鬼人」こと温羅太郎(うらたろう)。彼は800年以上生きている不死身の男。人生に悲観し自殺を繰り返すも死ねず。半ば仙人のように俗世を離れて眠り続けていたのを、千代が起こしてしまった。

 元気娘の千代は早速「私も不死にしてください!」と頼むが、温羅太郎は一蹴する。「できるわけねーだろ呆気(ボケ)」と。

 温羅太郎は確かに不死の身体を持っていたが、誰かを不死にする力はなかった。落胆する千代だが、彼女は不死の身であることに絶望している温羅太郎の孤独を知り、「あたし必ず不死になってみせますからっ!」と温羅太郎を励ます。最初は白ける温羅太郎だが、――それでも、もし温羅太郎が生きたくないと思うなら、「あたしがあなたを殺して差し上げますっ」「だからそれまであたしとともに生きませんか?」――千代の言葉に押されて、止まっていた時間が動き出す。

 こうして出会った二人は、「不死になる方法」と「不死を打ち消す方法」を見つけるべく、≪黄泉比良坂(よもつひらさか)≫という「この世とあの世をつなぐ霊地」を目指して旅をすることに。

 本作は「逝きたい!」温羅太郎と「生きたい!」千代、正反対の願望を持つ二人の関係がとても面白い。残り僅かな命しかないために、一瞬一瞬を大切に生きる千代は、長く行き過ぎたせいでローテンションの厭世家である温羅太郎と、まさに光と陰。

「生きることって素晴らしい!」と訴え、全力で「不治の病」とぶつかっていく千代に出会ったことで、生に飽き飽きしている温羅太郎の閉ざされた心が、少しずつ開いていく。その様子がなんとも、グッとくるのだ。

 この後、二人がどうなっていくのか。「不死」と「不治」は治るのか。また、どうやら千代の「呪い」は壇ノ浦の戦いでの「平家大逆転勝利」にも関係しているらしく、物語は日本列島を揺るがす大展開へと進んでいくようだ。

 源義経や平教経、藤原秀衡、安徳天皇などなど、歴史上の人物が多数登場するのも歴史好きにはたまらないところ(かなり個性的な姿だけども……。安徳天皇は男なのだろうか、女なのだろうか……)。

 温羅太郎は、もげた自分の首を振り回して戦ったり、化け物の身体の中から半分溶けた状態で登場したりと、ちょっとグロテスクな描写もあるけれど、そこが好き! はたまた、この独特の世界観がたまらない! という読者はきっと多いはず。

 現在2巻まで発売中だ。あなたもこの世界観にハマるかも?

文=雨野裾