日本の労働社会は残業しなければならないように設計されている!? 日本の会社から残業がなくならない理由

社会

公開日:2017/4/24

『なぜ、残業はなくならないのか』(常見陽平/祥伝社)

 2015年12月、電通の新人社員が自死に至り、労災認定されたことは、メディアで大きく報道されたため、記憶に新しいという方も多いだろう。その後、当時の社長が責任を取って辞任し、再発防止措置なども発表された。この事件をきっかけに、改めて我が国の長時間労働の問題に注目が集まっている。

 現在、安倍政権の掲げる一億総活躍社会を実現するため、「働き方改革」への取り組みが始まっており、残業の上限規制についても議論が行われている。だが、政府や企業の取り組みによって、残業時間を大幅に減らすことは可能なのだろうか? そもそも、欧米などの先進国と比較して、なぜ日本は残業が多いのだろうか?

 そんな疑問に、統計データや企業の事例、著者の経験など、様々な視点から徹底的に向き合っているのが『なぜ、残業はなくならないのか』(常見陽平/祥伝社)だ。著者は、残業は合理的で柔軟な働き方であり、日本の労働社会は残業しなければならないように設計されていると指摘。日本の雇用システムや仕事の任せ方を考えれば必然的に発生するものであり、人手不足を補い繁忙期などに柔軟に対応する手段だと述べている。だからこそ、残業をなくすことが非常に難しいのだ。

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■残業が発生する原因

 厚生労働省が発表するデータを分析すると、残業が発生する企業側の原因で上位を占めるのは以下の3つ。「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」「業務量が多いため」「仕事の繁閑の差が大きいため」。一方、労働者側は、「人員が足りないため(仕事量が多いため)」「予定外の仕事が突発的に発生するため」「業務の繁閑が激しいため」であった。個人の能力・資質や企業の体質に関連する項目は上位には入らず、個人や組織の努力で対処できるレベルを超えていると著者は分析している。

■仕事の任せ方によって発生する残業

 残業の根本的な問題として挙げられているのが、仕事の任せ方。本書によれば、欧米では「仕事に人をつける」、日本では「人に仕事をつける」という形になっているそうだ。前者の場合は、業務内容や責任が明確になり、仕事を定型化して引き継ぎもしやすくなる。しかし、後者では、1人に複数の業務が紐付けられる。職種を超えた仕事が任せられることもあり、仕事の範囲は無限に広がっていく。さらに、複数の仕事を担当するために仕事の終わりが見えづらく、残業時間の増加につながる一因となっている。

■残業手当は企業にとってもメリットがある

 時間外労働に対しては、規定の手当が支払われる。つまり、従業員の残業時間が長いほど企業が支払う金額も増える。しかし、労働者を増やすとなると、育てるために時間もコストもかかるため、仕事の量に応じて従業員の労働時間を延長する方が、結果的には安くすむ場合もあるのだ。さらに、労働者側も、残業手当を見込んで生計を立てているケースがあり、こうなってくると残業を大幅に減らしたり、なくしたりするのは極めて難しい。

 ワーク・ライフ(ライフ・ワーク)・バランスが推奨される一方で、依然として深刻な長時間労働の問題。在宅勤務が可能になり、会社で仕事をする時間が短くなっても、自宅で長時間働くのでは、生活の質はあまり向上しないだろう。ひとくちに仕事とプライベートの両立といっても、人によって事情は様々。とにかく仕事を頑張りたい人もいるし、プライベートを重視したい人もいる。誰もが自分らしい働き方を選択できる社会に近づけるためにも、残業の問題は政府や企業に任せるだけではなく、社会で働く私たち一人ひとりが、自分の問題として向き合わなければならない。そのためのヒントとなるような情報が存分に盛り込まれた本書を、ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。

文=松澤友子