卑弥呼や徳川家康は使える人材か? 採用者目線で偉人を見る!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『偉人たちにも黒歴史!? 日本史100人の履歴書』(矢部健太郎:監修/宝島社)

就職やアルバイトの応募の際に提出する履歴書。採用者はそこに書かれていることで応募者の人となりを判断する。それなら、歴史上の人物も履歴書の形で比較すれば、それぞれの人柄や功績がわかりやすいのではないだろうか。そこで、卑弥呼から吉田茂まで、日本の歴史を語る上で欠かせない重要人物100人を履歴書の形で紹介する『偉人たちにも黒歴史!? 日本史100人の履歴書』(矢部健太郎:監修/宝島社)を取り上げる。

いくら歴史上の人物を履歴書の形で紹介すると言っても、一般的なアルバイト用の履歴書フォーマットではかえって人物像がわかりにくくなってしまう。既にあの世にいる人々なのだから、志望動機や通勤時間を書く欄はかえって邪魔というわけだ。そこで、歴史上の人物たちの一生が一目でわかるような特別のフォーマットが採用されているが、それでも普段我々が目にするような履歴書の体裁を意識した作りになっている。

まずは見開き2ページにわたる履歴書の左ページから見ていこう。この本の履歴書では、「氏名(ふりがな)」「生年月日」「没年月日」「性別」「出身」「立場」「あだ名」となっているが、普通の履歴書なら「氏名、生年月日、性別、住所、本籍」という部分に当たる。生年月日のすぐ横に没年月日があるところがいかにも歴史人物の履歴書らしい。「立場」という微妙な言い回しになっているのは、役職とは言いかねる部分もあるからだろう。ここまでの部分で気になるのはやはり「あだ名」という項目。織田信長の「尾張の大うつけ」や前田利家の「槍の又左」のようなものばかりが書かれていることを想像するかもしれないが、もっと意外なこともわかる部分だ。例えば、戦国大名の北条早雲の本名は伊勢宗瑞。北条早雲は通称で、この履歴書の中でも本人はこの名を名乗ったことがないと言っている。同じく、板垣退助も本名は乾正形。戊辰戦争後に板垣正形に改名し、明治に入ってからあだ名だった退助を名乗るようになったという。

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履歴書の左ページは以下「概要」「家族」「学歴・職歴」と続く。概要というのは、それぞれの人物の一生を3行~4行で簡単に説明している部分。だから、どんなことをした人かが知りたければここを読むだけでも足りる。学歴・職歴欄に関しては、一般の履歴書と全く同じ形式だ。

右ページに移ると「ファッション」「幼少期の様子」「性格」「トラウマ」「趣味」「家庭環境」「交友関係」「恋愛関係」「仕事ぶり」「人生の目標」「死因」「特技・得意技等」と細かく項目分けがされている。一般的な履歴書なら、「趣味」「特技」「長所」「短所」くらいで済むところが、かなり細かい印象だ。ここを読めば歴史上の偉人たちの意外な一面がまるわかりなのだが、トラウマや恋愛関係などの記入欄があることを知ったら、草葉の陰で「プライバシーの侵害だ」と怒る偉人もいるに違いない。

最後に「本人希望記入欄」があるのもご愛敬だ。例えば、関ヶ原の戦いで敗れ、その後刑死した石田三成は「小早川秀秋だけは呪い殺してやりたいですね」と言っているし、フランシスコ・ザビエルは「教科書の肖像画に落書きするのはやめてください」と訴えている。白河上皇の「生前退位によくないイメージがあるのは、ひょっとして私のせいですか?」というコメントには、「あ、そうかも」とついうなずいてしまった。

このような履歴書が100人分収録されているのだが、この本はただ単に100人分の履歴書を羅列しているわけではない。履歴書の後の2ページはそれぞれの人物についての解説になっている。そのせいで447ページというボリュームの分厚い本になってしまったのだが、ちゃんと人物名の索引と時代別のインデックスが付いているから大丈夫。お目当ての人物は簡単に見つけられる。とはいえ、採用者目線で100人の履歴書を見てみると、偉人はみな個性派ぞろい。使いづらそうな人材ばかりというわけで、今回の採用は見送ろうと思った。

文=大石みずき