『キミスイ』作者の最新作! 住野よるが描く今度のテーマは「かくしごと」

文芸・カルチャー

更新日:2019/3/26

『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮社)

2015年発売のデビュー作『君の膵臓をたべたい』が75万部を超える大ヒットを記録し、この夏映画化も決定している住野よるさんの最新作『か「」く「」し「」ご「」と』(新潮社)が発売された。

本作のテーマは「かくしごと」だ。

人は誰しも、大きなことから、小さなことまで「かくしごと」を持っている。本作はそんな「かくしごと」を中心に“ちょっとだけ特別な力”を持った高校生〈京くん〉〈ミッキー〉〈パラ〉〈ヅカ〉〈エル〉の5人が代わる代わる主人公として登場し展開する連作短編だ。

advertisement

タイトルが印象的な本作は、章タイトルも変わっている。

京くんが主人公の章は「か、く。し!ご?と」、ミッキーは「か/く\し=ご*と」、パラは「か1く2し3ご4と」、ヅカは「か●く●し●ご●と」(●は、右から「スペード」「ダイヤ」「クラブ」「ハート」)、エルは「か↓く←し↑ご→と」と、「かくしごと」の文字の間に記号が挟まれている。

この変わったタイトルは、章ごとの主人公たちが持つ“ちょっとだけ特別な力”に関係しており、間に入った記号が能力そのものを表す。そして、その“ちょっとだけ特別な力”が、本作の「かくしごと」であり、主人公たちは、その能力を秘密にしながら生活する。とはいえ、本作はそれを隠すことに主題が置かれるわけではなく、高校生同士の繊細な心の動きを描く青春ストーリーだ。

“ちょっとだけ特別な力”は、どれも人の心を少しだけ探ることができるものばかり。しかし、少しだけしか探ることができないからこそ、主人公たちはああでもない、こうでもないと、相手の気持ちを推測しながら頭を悩ませていく。そして、登場人物たちは人の気持ちがわかる分、自分のふるまいにも人一倍気を使う。

例えば、作中でパラは「本当は私だってそういう人間になりたいよ。損得なんて考えない人間になりたいし、やりたいことだけ迷いなくやれる人間になりたい。でも、実際の私はそうじゃない。私の言葉や、行動は、私がなりたい私にしか過ぎない。本当の私じゃ、ないの」と言う。

この言葉を聞き、自分と重なるという人は多いのではないだろうか? きっと、大半の人は、なりたい自分を演じているだろうし、周りから見られている自分と本当の自分は違うと感じているだろう。もどかしい気持ちを抱え、人間関係に頭を悩ませている人だって珍しくはない。

本作ではこのように人と接する中での悩みや、人には簡単に伝えられない思いが多く描かれている。自分の気持ちを代弁してくれるだけでなく、自分の気持ちをわかってくれる人がいるんだと感じさせ、心をすーっと軽くしてくれる。もやもやした思いを少しだけ解決に導いてくれる一冊だ。

文=舟崎泉美