女同士で「団地」に住もう! ジェーン・スーほか8人の女性クリエイターが紡ぐ珠玉の団地物語

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『団地のはなし 彼女と団地の8つの物語』(山内マリコ、最果タヒ、ジェーン・スーほか/青幻舎)

小学生のころ「団地住まい」に憧れていた。同じ団地に住んでいるという友人たちの妙な一体感がうらやましく、そしてねたましかったからである。

大人になり自分で住む家を選択できるようになったいまでも、団地という場所には、なにか特別な雰囲気を感じていた。もしかして団地には、人の心を惹き付ける特殊な磁場でも発生しているのではないかと薄々感じていたが、『団地のはなし 彼女と団地の8つの物語』(山内マリコ、最果タヒ、ジェーン・スーほか/青幻舎)
を読んでそれは確信に変わった。

本書は、ユニークな特徴のある物件を多く扱う「東京R不動産」の編著による作品集で、8人の女性作家やクリエイターが団地を舞台にしたさまざまな物語を紡いでいる。本書を読んでまず驚いたのは、ひとつのテーマでこんなにも彩り豊かな作品が生まれるのだということ。しかも作者それぞれが、団地という存在に対して何かしらの思い出や特別な感情を持っているのだ。やはり、団地には何か磁場的なものが生じているのだろう。

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たとえば、エストニア人の留学生が日本の団地で過ごした1年間の物語を手記という形で小説にした山内マリコさんは、団地について語るトークイベント「団地団」の団員だと明かしているし、「ぼくらの心臓の間取りは」というタイトルで4篇の詩の連作を描き下ろした最果タヒさんは「団地のあの窓の光が愛おしく見える(本書p.134より引用)」と語っているのだ。

肝心の内容は、漫画家のカシワイさんが繊細なタッチと優しい色使いで、団地に住む人々の「つながり」を描いていたり、作家の松田青子さんが、団地の向かい同士に住むふたりの女性の生活の機微をリズミカルな筆致で書いていたり……。それぞれのクリエイターの作風が色濃く表れていて、1冊の本で8つの世界観を堪能できる。

一方、女性クリエイターが女性目線で表現した作品ばかりなので、どこか共通する部分も多々ある。とくに印象的だったのが、老後は友だちと団地に住みたいというジェーン・スーさんが「昔、女友達3人と近所に住んでいた時期があったんです。仕事帰りに駅前のファミレスに立ち寄れば、誰かは必ずいるって環境がもう最高で(本書p.58より引用)」と、女優の菊池亜希子さんが「20代後半から30歳くらいまでの間、同じマンションに友だちが住んでいたんです。スープを作りすぎたりすると、連絡を取り合って、一緒にごはんを食べていました。(中略)あれはひとつの青春時代だったなって(本書p.84より引用)」と、それぞれ語っていたこと。

もしかしたら、女友だち同士の心地よい関係は、同じ団地の住人のなかに生まれる「ゆるいつながり」と似ているのかもしれない。25歳を過ぎてから、ピリピリしてわずらわしかった女友だちとの関係が、ゆるゆると楽なものに変わってきたように思うが、それは付き合いが長くなるにつれ、ちょうどいい距離感をお互いが察知できるようになったから。団地という空間には、そういう「ゆるいつながり」がごく自然に生まれるのではないだろうか。

本書にも書かれているように「マンションほど他人行儀ではなく、シェアハウスよりもゆるやかなつながりを持てる(本書p.55より引用)」団地での生活は、単身世帯が増えている現代において、かけがえのないものになるかもしれない。筆者も独身生活を嘆くより、女友だちと一緒に、かつて憧れた「団地住まい」を検討してみようと思う。

文=近藤世菜