憲法は「理想を掲げるもの」「現実と食い違ってあたりまえ」とは? 憲法施行70年の今年、憲法について考えてみる

社会

更新日:2017/5/9

『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』(伊藤真/KADOKAWA)

 みなさん、「憲法」について興味があるだろうか? めちゃくちゃ詳しいし関心がある、という人の方が少ないと思うが、無知ではいられない現状が目の前にある。

 2012年に自民党の憲法改正草案が発表された。今後憲法改正が現実味を帯び、民意の問われる日も近いかもしれない。となると、日本国民として「興味ない」で済まされる問題ではないのだ。今年は日本国憲法が施行されて70年の節目でもある。これを機会に、もう一度≪憲法≫について、学んでみてはいかがだろう。

 電子書籍化され現在電子書店にて好評配信中となっている、『伊藤真の日本一やさしい「憲法」の授業』(伊藤真/KADOKAWA)は、「憲法について知っておきたい。だけど、教科書を読む気にもなれないし、難しい内容には頭がついていかない!」という人にうってつけ。「ものすごく分かりやすい」のに「基本的な説明が押さえられているのでしっかりと知識が身につく」最良の一冊だ。

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 そもそも憲法とは、「国家統治の基本構造についての定め」であり、憲法に基づく統治方法を「立憲主義」という。立憲主義は「『国民の自由・権利を保障すること』を第一の目的として、権力者を拘束する原理」のことである。

 本書はその「憲法」及び「立憲主義」の基本的な内容・特徴について、さらに憲法という考え方がどうして生まれ、どのように成立したかの思想や歴史的な過程にも言及されている。最もフォーカスされているのはもちろん、日本における「立憲主義成立の歴史」や「現代日本の政治体制」、「憲法の詳細な内容」についてである。

 日本国憲法について、最も関心が持たれているのは9条に代表される「平和主義」だろうか。今回は、こちらについて本書の内容をご紹介したい。

 平和主義は「戦争による威嚇と苦しみを排してこそ、真の自立した個人が生まれる」という考えに基づき、第二次世界大戦の反省から平和の実現を求める国民に支持され、我が国における重要な基本原理となっている。ポイントは、「国家の平和」が一番の目的ではなく、個人の自由と権利を保障するためには「平和」が必要という、あくまで国民が主体の考え方だということ。

 第9条には

・日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
・前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 とある。

 平和主義の理念は「他国に守ってもらおう」という他人任せではなく、また「攻撃されても軍事力がないから黙って耐える」といった国民を守る国家として荒唐無稽なキレイゴトを述べているわけでもない。

 本質は「平和構想を提起したり、紛争緩和の提言を行ったりして『武力以外の方法』で平和への積極的努力をすること」を含んでいる。

 さて、この平和主義に反していると問題になっているのが安倍内閣の「安全保障政策」。これは「一定の場合には戦争を容認する」政策と言える。

 最も危惧されているのが「集団的自衛権の容認」。

 今までの政府見解では日本が攻撃された際に「国民を守るための必要最小限の実力行使」(個別的自衛権)は認められていたのだが、日本と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていなくても実力をもって阻止する権利(集団的自衛権)は認められていなかった。だが、安倍内閣によって容認されてしまったのである。

 様々な意見があると思うが、日本国憲法が考える平和主義は「軍隊で国を守ろうとするのではなく、外国から攻められないようにする賢明な外交政策によって日本国民の安全を保持することを要求」している。その観点から考えると、安倍内閣の安全保障政策は、その理想に反すると言わざるを得ない。

 さらに自民党の「日本国憲法改正草案」。こちらの問題点についても本書では詳しく説明されているので、ぜひ正しい知識を持ち、憲法改正に賛成するか否かを熟考してほしいと思う。

 正直なところ、私は憲法改正に賛成だった。なぜなら「時代と共に世界情勢や日本を取り巻く環境は変化するから、それに合わせて国の方向性も変えるべき」というのが一点と、「日本国憲法は敗戦後すぐ制定されたものであり、戦勝国のアメリカの影響を強く受けているから」というのが一点。よって、「変更した方がいいのでは?」という想いだったのだが、本書を読んで考え方を改めた(私の主張は本書内で見事に論破されるので、同じ考えをお持ちの方もぜひ一読を)。

 そもそも、憲法は権力者(または、民衆の多数派)の暴走を防ぐためのものである。よって「時代に合わせて柔軟に変更」していたら意味がないのだ。

 さらに言えば憲法は「理想を掲げるもの」なので「現実と食い違ってむしろあたりまえ」であり、だからこそ「それに向かって努力することを国民に期待している」。

 暴力や戦争が横行する世界の現状に合わせて憲法を変更するのではなく、平和ではないからこそ、その理想に向かっていくための目標として、憲法(特に、第9条)は存在するのかもしれない。

 憲法が存在する意味を再確認できる本書は、「大人」としての必読書だろう。

文=雨野裾