「中流転落不安」が未婚者を増やす!?

恋愛・結婚

公開日:2017/5/15

『中流転落不安 結婚クライシス』(山田昌弘著/東京書籍)

 現在、日本では未婚者数が増加傾向にあります。結婚していないだけでなく交際していないという人も増え、異性への興味が高まるべき思春期の子どもたちですら好きな人がいなかったり、性への関心もなかったりしているというのです。

 そんな現状を危惧し未婚者が増えている背景を探った本があります。『中流転落不安 結婚クライシス』(山田昌弘著/東京書籍)です。「パラサイトシングル」や「婚活」という言葉の生みの親である山田昌弘氏が『毎日新聞』朝刊と『解脱』で連載していた、結婚難の背景にあるさまざまな問題や、婚活や結婚の現状などについて綴った内容をまとめ、加筆した1冊となっています。

 現在のアラフォーやアラフィフ世代が子どもだった頃の日本は国民のほとんどが中流階級の生活をしていると自負する「一億総中流」といわれた時代でした。しかし普通に働いて普通に生活していれば中流生活が送れると考えられていた時代から一転。今、必死に働いているのに経済的な苦しさを感じる人の数は増えているといいます。

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 日本人は周りの人から見て恥ずかしくない“人並みの生活”ができることが重要だと考えている人が少なくありません。このため中流から転落することに不安を抱いている人も多いといいます。そして、その中流から転落するか否かのひとつの大きな転機となるのが“結婚”です。

 結婚は“好きな人と新しい生活を始めるイベント”であると同時に生活水準に変動が起こる人生の大きなターニングポイントでもあります。そして多くの女性は結婚相手に譲れない条件として「収入が高く、安定している」点を挙げているのです。

 未婚女性の結婚相手に望む年収調査では400万円以上を総計すると68%と3分の2を超える。ところが現実は年収400万円以上の未婚男性は25.1%、600万円以上となると5.7%にまで減ってしまいます。

 著者によると適齢期を過ぎた未婚者男性には2つのタイプがあるといいます。

結婚拒否タイプ:収入はあるが自分の趣味のために結婚をしないタイプ。女性にモテるタイプが多いが結婚には踏み切らない。特に実家暮らしをしている場合、財布を握られる妻を持つより、家事をしてくれる母親のもとで自分のお金を自由に使える独身でありたいと考える。

結婚を諦めるタイプ:ある程度の年収や安定といった経済力が低く、結婚後の生活を支えきれないと諦めている。

 結婚しやすいとされる女性の特徴のひとつが「相手に求める条件が少ないこと」です。しかし現在、非正規雇用者の増加により経済力の低い結婚諦め型男性は増えています。つまり女性が経済力の高さに条件を絞ると結婚の成立率は減ってしまうのです。

 婚活セミナーなどでは高収入男性が好む女性らしさの演技指導や、結婚するならルックスではなく収入という条件に絞る勧めをするところもあるといいます。しかし、そのようなことをしても道は開かれず婚活疲れする女性も増えているというのです。

 結婚の意欲につながるはずの将来への希望を持ちにくくさせる日本の社会についても著者は危惧しています。

 親の経済格差の影響を受ける学歴や就活、チャンスが一度しかない新卒一括採用、長時間労働、職場の女性差別といった労働環境が就労への意欲を減退させるといいます。

 日本の社会保障制度が制度の内側にいる人には優しいが、適用されない人は放置する点も問題として挙げています。結婚して子どもを授かっても、保育園に入園できた人とできなかった人、育休が取得できた人と活用できなかった人との間に大きな格差が生まれるリスクがあるのです。

 結婚にいたるひとつの工程が恋愛です。若者の“絶食化”について複合的な理由があることを前置きした上で、男女交際や性的関係が楽しいものではないという意識の広がりも一因であると指摘します。

 人前ではべたべたしないカップル、手をつながない中高年夫婦など、楽しい恋愛や結婚生活を目にする機会が少ないことに加え、失敗したときのリスクが大きい“告白”文化も恋愛のスタートにブレーキをかけやすくしているというのです。

 恥じらいなく婚活ができる時代になり、自治体に婚活を支援される社会になっても結婚する人は増えていません。人によっては高い結婚の壁。それでも結婚するための道、結婚したいと感じられる社会となる道はどこにあるのか。そんな問いの答えを導くヒントが多く隠されている本書で結婚についてあらためて考えてみてはいかがでしょうか。

文=Chika Samon