「万能鑑定士Q」「探偵の探偵」松岡圭祐氏初の歴史エンタメ! 列強と中国・清が対決した時、日本が成し遂げた快挙とは

文芸・カルチャー

2017/5/16

歴史の教科書に眠る人々の息づかいに私たちは気が付けない。ひとつひとつの史実の背景には、多くの人の思いがあったはずだ。だが、教科書を開いていた当時は、そんなことに思いを馳せる余裕もないまま、年号と事件をなぞるので精一杯だった。本当ならば、過去の人々がどんな思いでその時代を生き抜いたのかを詳しく知れば、もっと自国の魅力に気づけたかもしれない。日本人の内奥に眠る国民性、日本人の美徳。その美しさを知らないまま日本人として生きているすべての人に読んでほしい本がある。

黄砂の籠城(上・下)』(松岡圭祐/講談社)は、読む人々を圧倒するエンターテインメント作品。「万能鑑定士Q」「探偵の探偵」「水鏡推理」などのミステリーシリーズで知られる松岡圭祐氏が書き下ろした初めての歴史小説だ。題材となっているのは、1900年の義和団事件。列強と中国・清が真っ向から対決し、アジアの20世紀の転換点となった大きな事件だが、その詳細を理解している人は少ないだろう。その解決のために中心となって動いたのが、実は日本人なのだという。ドラマチックな展開と交錯する人々の思い、手に汗握る展開に引き込まれてしまうこと間違いなし。誇り高く、清々しい日本人の生き様に強く惹かれてしまう。

時は1900年春、清国末期。砂塵舞う北京では、外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団が勢力を増し、暴徒化していた。語学が堪能な櫻井隆一伍長は、新たな日本公使館付駐在武官として赴任した柴五郎陸軍砲兵中佐と行動を共にすることになる。教会を焼き討ちし、外国公使館区域を包囲する義和団を制圧すべく、11カ国が協働しようとするも、なかなか足並みは揃わない。

明治維新から30年しか経っていない日本は、列強に並んだはずであっても、各国の公使や兵たちから見下され、列強とは名ばかりの対応を受ける。おまけに、日本の中心的立場に立つはずの、柴五郎陸軍砲兵中佐はあまりにも腰が低い。しかし、能ある鷹は爪を隠すもの。我のぶつかりあいばかりを繰り広げる各国の公使に対して、柴は行動でその能力を示し始める。柴中佐の采配力。秘められた知性と熱い思い。解決困難な問題に直面した時の対応力。人間性にこそ、真の強さがある。

1900年に起こった出来事と似た状況に現代も見舞われているように思える。宗教が絡んだテロ事件、領土問題。そんななかで日本はどう振る舞うべきなのか。大切なものは何なのか。義和団事件では、民衆の乱が国家間の戦争へと発展してしまう。20万人の義和団と清国軍の前に4000人の外国人とキリスト教徒の命は風前の灯火。真の力を見せた柴中佐は実質的な指揮官となるが、列強11カ国をまとめることなどできるのか。日本人の叡智と勇気を初めて世界が認めた、壮絶な闘いから私たちが学ぶべきことは多い。

柔らかな物腰と、優れた知性、温かい人間性。私たちの中にもそんな日本人の精神が息づいているのだろうか。文化の違いを痛感しながらも、育まれていく友情。非常時のロマンス。各国の軍医の不審な死をめぐるサスペンス。死と隣り合わせの鬱屈した日々。普段から歴史小説を読む人もそうでない人も楽しめる物語を、松岡圭祐氏は史実をなぞりながら書き上げた。どうして今までこんな素晴らしい日本人の活躍を知らなかったのだろう。日本人であれば、すべての人に読んでほしい、誇り高き物語がここにある。

6月には、明治期の大事件・大津事件にライヘンバッハの滝で死亡したと思われたシャーロック・ホームズが立ち向かう『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』が講談社文庫より書き下ろしで出版される。この作品にも松岡氏の驚くべき仕掛けが用意されているに違いない。

文=アサトーミナミ