魚にも「意識高い系」はいる? ドワンゴ人工知能研究所の研究者たちは話題の「AI小説」をどう読んだのか?

文芸・カルチャー

2017/6/9

(左から)さかき漣さん、山川宏さん、大森隆司さん

2017年4月某日。人工知能の世界で最前線を走る3人によるAI鼎談が行われた。集まったのは、AIの未来とシンギュラリティを背景にしたSF小説『エクサスケールの少女』を上梓した作家のさかき漣さん、ドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏さん、玉川大学脳科学研究所教授の大森隆司さん。まずは、本の感想を語り合うところから、鼎談は始まった。

大森隆司氏(以下、大森) 『エクサスケールの少女』を送っていただいて、読み始めたら2ページ目に、「『価値システム』を作らなければ(良心のシンギュラリティは来ない)」と書かれていて、衝撃的だったんです。それで本気で読まなければと思って。『価値システム』という、私個人の問題として研究していることに直撃だったので引き込まれました。ストーリー展開も面白くて、うわー、日本を潰している(笑)と、楽しみながら読ませていただきました。

さかき漣氏(以下、さかき) 私は読者を「景色が千変万化するジェットコースター」に乗せている、みたいに書くのが好きなんです。途中の怒涛の展開にみんながついてくるのが大変なのだけれど、怖いもの見たさで最後まで読見切らせる、というのを目指しています。

大森 まさにそんな感じでした。

さかき 大森先生に本をお送りしたのは、いろいろな先生から、大森先生と私の考えが似ていると伺っていたからなんです。なので、必ずお送りしようと思っていました。Face bookでおほめのことばをいただいて、とてもうれしかったです。

大森 こちらこそありがとうございました。

山川宏氏(以下、山川) 人工知能がどういうふうに社会において役に立つのだろうかということはずっと考えていたので、それが小説のテーマに取り上げられているのが重要だと思いました。うちは「全能アーキテクチャ」という、脳に学ぶことをやっていて、コネクトームを使っています。コネクトームというのは脳の中の結合構造ですが、小説の中でその解明を、という話が出てきて、ちゃんとそこまで書いてあることが非常に面白いなと思いました。

さかき コネクトームに関してちゃんと理解できているか自信は無いんですが、エンタメ作品として、コネクトームを描いた小説は初ではないかと。

山川 多分そうだと思います(笑)

さかき なので、これだけでも価値があると思うんです(笑) 。後半は全能アーキテクチャというよりは、情動のシステムが必要か否かということと、KIRAくんが大脳皮質を、それ以外のすべてを青磁が担って、2体がくっついてシンギュラリティを起こすので、どちらかというと、超人間っぽい感じです。そうすることで、身体問題などのあらゆる問題がクリアできるのではないかと考えました。

大森 BMIを持ち込んできて、ああこう繋いだか、と思いました。あと、非常に印象に残っているのはPEZYのコンペティションの話とか(編注:スーパーコンピュータを開発するベンチャー起業家・齊藤元章社長が率いる株式会社PEZY Computingが、2016年のスパコンの 省エネランキング Green500 で 3 期連続の世界第 1 位を獲得。2位も獲得し、1、2位を占めたことをモデルにした小説内のエピソードがある)。非常にリアルで、だいぶ取材したのかなと思いました。

さかき そうなんです。ドイツの学会の表彰式にも行って、見たままを書きました。PEZYの齊藤社長が登壇されて、めちゃくちゃかっこよくて。同じ日本人がこういうところでトップに立つだけですごく嬉しいんだな、と感動したので、あのシーンは臨場感があったと思います。

大森 そうだったんですね。不思議なもので、社会学で「内集団」というんですが、自分の身内、非常に小さいところなら家族があって。その外側の自分が所属している学校や仕事先などの集団があって、それも身内になって、さらには日本や、極端にいうとアジア圏も身内になっていく。

さかき はい。

大森 身内とその外側という分かれがあるわけです。さかきさんが感動したように、われわれは身内を応援するようにできている。けれどその理由は、実はよくわかっていない。この間、社会学の人になぜかを聞いたら、そんな難しいことを聞かないでくれと言われました(笑)

山川さかき (笑)

大森 現象的には明らかにあって、研究もいっぱいあるんだけれど、なぜと聞くと、やっぱり遺伝子にそう組み込まれているんですよね、みたいな話になる。

山川 メカニズムとしては、生まれた時の母親にくっついていく、みたいなこともありますよね。記憶と関係するんだと思うんですけれども。

大森 よく神経科学で言われるのはエンパシィですね。そばで悲しがっている人がいると、伝染してこちらも悲しくなってしまう。そういう意味で身内や仲間の起源になるものはやっぱりエンパシィなんです。エンパシィの能力はだいたいの哺乳類にあって、ネズミやラットマウスなんかにもあります。

さかき ネズミにもあるんですね。個体が小さくなると意識がなくなっていく、と勉強したんですけれど、大きさ的に、どこから意識はあるんでしょうか。

大森 意識の定義によるでしょうね。

山川 目が覚めている程度であれば、金魚でもあります。

さかき 藻とかにはないですよね?

山川 ああそれはないですね。動物じゃないと。

大森 寝ている時には意識が無くて、起きている時にはあると定義すれば、魚は眠るので多分意識がある。

山川 それはたぶん定義としてはありますね。でも「意識が高い」という意識は無いですね。魚が、俺意識高いし、みたいな(笑)

さかき大森  意識高い系!(爆笑)

※3人がさらに深くAIについて語り合う、鼎談ロングバージョンは6月10日(土)11:00公開

 

<プロフィール>

さかき漣
さかき・れん●作家。立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業。著書にSF『エクサスケールの少女』、社会小説の既刊に『コレキヨの恋文』『希臘(ギリシア)から来たソフィア』『顔のない独裁者』他。2015年、『顔のない独裁者』が『イブセキヨルニ』として短編アニメ化。

山川宏
やまかわ・ひろし●1965年埼玉県生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。人工知能学会編集委員長。ドワンゴ人工知能研究所所長。NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表。

大森隆司
おおもり・たかし●工学博士。東京大学工学研究科計数工学専攻修士課程修了。日本神経回路学会会長。日本認知科学会前会長。玉川大学工学部/脳科学研究所教授。玉川大学学術研究所所長。感情と価値のAIへの実装について研究する。人工知能と保育の大掛かりな研究も行っている。

取材・文=波多野公美 写真=山本哲也

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