生中1杯6000円、ホットドッグ4000円…海外からも注目される、奥深い「食品サンプル」の世界

暮らし

2017/5/29

『食品サンプル百貨店』(竹村真奈、小西七重/ギャンビット)

 生中1杯6000円、ホットドッグが4000円、デザートのソフトクリームは3000円。…ぼったくりバーのレシートではありません。実はこれ、食品サンプルのお値段の一例なのです。

 飲食店のショーケースに輝く、色とりどりの食品サンプル。現代の日本に暮らす私たちにとっては見慣れた光景ですが、実は近年、その精巧さとユニークさが海外の人々の関心を集めているそうです。来日した観光客のなかには、食品サンプルをモチーフにした雑貨や、業務用の食品サンプルそのものをお土産として購入する人もいるのだとか。食品サンプル工場や、サンプル作りを体験できる施設は昨今、観光スポットとしても話題となっているようです。

食品サンプル百貨店』(竹村真奈、小西七重/ギャンビット)は、日本のレストランにおける人気メニューの食品サンプルおよそ300点を、フルカラーで掲載したヴィジュアルブックです。ページをめくると、ラーメンにお子様ランチ、プリンアラモードやクレープなど、誰もが一度は目にしたことがあるであろう、定番の食品サンプルがずらり。こうしたサンプルの多くは現在、塩化ビニルで作られているとのことですが、掲載されているメニューはどれも、本物と見紛うばかりのシズル感! 眺めているだけでも、ヨダレが出てきそうです。

 飲食店向けの食品サンプルは、各店舗の実際の商品に合わせて製作する必要があるため、一般的にはオーダーメイドの形を取るそうですが、それでも定番のメニューについては、メーカーごとに“既製品”が用意されている場合がほとんど。本書に掲載されているものも、多くはこの“既製品”にあたるのですが、実はこれこそが、食品サンプルを観賞するためのポイントでもあるのです。

 例えば、喫茶店の花形・パフェは、お店によって内容や飾りつけにかなり幅がありますが、それでも複数のサンプルメーカーが“既製品”を用意しています。そしてそれは、これまで数々のパフェのサンプルを手掛けてきたメーカーが作った“既製品”なわけですから、つまりこの“既製品”を見れば、日本のパフェのおおよその「平均」を知ることができるのです。

 本書に掲載されているチョコレートパフェのサンプルは、脚付きグラスに下からチョコレートソース、クリーム、コーンフレーク。再びクリームを挟んでから、カスタードの上にフルーツ類が重ねられているようです。グラスの縁の高さを越えたところでもう一度、クリームとチョコレートを絞って、頂上には真っ赤なチェリーが。確かに、これぞ王道といえるようなチョコレートパフェですね。

 同書ではこのほかにも、日本における食品サンプルの歴史や、食品サンプル工場での作成体験、そして、近年脚光を浴びている、食品サンプルのリアルな質感を活かしたアクセサリーなどが紹介されています。今やファッションアイコンとしても注目される芸人・渡辺直美さんがテレビや雑誌で身に着けているアクセサリーにも、食品サンプルを用いたデザインのものが見受けられますが、これは老舗食品サンプルメーカー・FAKE FOOD HATANAKAさんが手掛けられたもの。本書にも幾つか商品が掲載されているのですが、こんもり盛られたスパゲッティが艶やかなカチューシャや、果汁のしたたるカットフルーツのピアス、着けたら腕が脂でテカテカになりそうなベーコンのブレスレットなど、どれもインパクトの強いものばかり。個性的なお洒落を叶えてくれそうなアイテムは、見ているだけで楽しい気分になれます。

 また、各パート間には、ユニークな食品サンプルの誕生秘話や、食品サンプルコレクター・小幡晃子さんへのインタビューなどを収めたコラムも掲載。中でも私が個人的にグッと来たのは、喫茶店に置かれているホットコーヒーのサンプルのうち、コーヒーミルク(フレッシュ)が上から注がれている瞬間を、そのまま模型化したもの――あのサンプルが生まれたきっかけについて、考案者ご本人が語っている部分です。食品サンプルにそんな優しさが込められていたなんて…!と、思わず胸が熱くなってしまいました。

 キッチュとキュート、そして飯テロ要素が渾然一体となって襲ってくる、唯一無二の1冊。夜中に見るとお腹が空きますので、ご注意を!

文=神田はるよ