“女の子の憧れ”がいっぱい詰まったあんびるワールドに親子でハマる人続出!? シリーズ累計100万部突破の「魔法の庭ものがたり」20巻刊行記念イベントレポ

文芸・カルチャー

公開日:2017/6/8

    あんびるやすこ
    児童文学作家・あんびるやすこさん

 「魔法の庭ものがたり」シリーズをご存じだろうか? 11歳の人間の女の子・ジャレットが、魔女から相続したハーブガーデンで「ハーブの薬屋さん」として村人のために奮闘する物語で、小学生女子の絶大な人気を集めている。著者は児童文学作家のあんびるやすこさん。お話と、かわいらしいイラストの両方を手掛けている。あんびるさんは岩崎書店の「ルルとララ」シリーズや「なんでも魔女商会」シリーズも同時進行で刊行しており、なんとすべてがミリオンセラーという押しも押されぬヒットメーカーだ。先日、最新刊『魔法の庭の宝石のたまご』(ポプラ社)発売を記念して、スペシャルイベントが行われた。小学生ばかりでなく、母親たちをも魅了しているというその人気の秘密に迫るべく、イベントに潜入してみた。

 イベント当日、降り注ぐ初夏の日差しのなか会場を訪れたのは、多くの応募者から抽選で選ばれたラッキーな15組30名の親子。まるで「魔法の庭ものがたり」の主人公が本から飛び出してきたような、可憐なワンピースと麦わら帽子姿の女の子が何人もいて、作品への思い入れが伝わってくる。

 会場となったのは、ハーブ・アロマテラピーの専門店「生活の木」が埼玉県飯能市で運営する、広大なメディカルハーブガーデン「薬香草園(やっこうそうえん)」。作品世界を身近に感じてもらおうと考えた版元のポプラ社の働きかけに、ハーブの楽しみを子どもたちにもぜひ体験してほしいと考えた生活の木が応え、コラボレーションが実現した。

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 最初のプログラムは、施設内にあるハーブ蒸留室でのロールオンアロマ作り。ラベンダー、ペパーミント、ゼラニウムなど数種類のエッセンシャルオイルの中から好きな香りを選んで調合し、小瓶に詰め込んでゆく。

    魔法の庭ものがたり

 華やかなハーブの香りに包まれて、オリジナルアロマ作りに真剣に挑戦する親子たち。「香り」は大人の楽しみ、となんとなく思っていたが、認識をあらためた。むしろ、好奇心旺盛で鋭敏な感覚をもった子どもこそ楽しめるものなのかもしれない。

 ロールオンアロマ作りの後は、2班に分かれてのメディカルハーブガーデンツアーだ。今が一番の見頃というガーデンには、200~300種のハーブが豊かに生いしげっていた。

    魔法の庭ものがたり

 ツアーガイドのお姉さん(生活の木のスタッフ)に勧められ、葉や茎をこすって熱心に香りを確かめる子どもたち。ハーブの名前を尋ねられると、少しのヒントでどんどん正解を言い当ていく。その表情は本当にいきいきとしていて、「魔法の庭」に迷い込んだかのようなシチュエーションを心から楽しんでいるようだった。

 ツアーから戻った後は、著者のあんびるやすこさんが登壇してのトークショー。「魔法の庭ものがたり」シリーズが生まれた経緯や執筆の舞台裏を語った。

    魔法の庭ものがたり

 スクリーンに、表紙のラフスケッチや、全ページの台割、使っている画材、登場人物のファッションの参考にしているという雑誌の切り抜きなどが映し出されると、目をキラキラさせて食い入るように見つめる子どもたち。

 会場となった部屋には、シリーズ全巻がディスプレイされていたのだが、並んだときの色のバランスが絶妙で思わず目を奪われる。それもそのはず、あんびるさんは、「棚に並べたくなるような本にしたい」と、続巻の配色まで考えながらカバーの色彩設計をしているのだそうだ。また、本文も、カラーがふんだんに入っていたり、絵の輪郭にそって文字がレイアウトされていたりと、文章と絵、両方を手掛ける著者だからこその、自由で遊び心のあるデザインになっている。

 その後、なごやかな雰囲気のなか質疑応答とサイン会が行われ、イベントはお開きとなった。帰り際の親子にお話を聞いた。

――今日はどうでしたか?

「(アロマ作りで)本で見たものを実際に作れて嬉しかったです」

「娘が『魔法の庭ものがたり』シリーズが大好きで、ハーブをたくさん覚えて教えてくれるんです。女の子らしくて、安心して子どもに読ませられる本だと思っています。今では、娘の方がハーブに詳しいくらいなんですよ」

 本を通して、おしゃべりが弾んでいる様子が伝わってきた。

 終了後、あんびるさんにあらためてお話をうかがうと、最新刊に込めた思いについて、こんなふうに語ってくれた。

    魔法の庭ものがたり

「最新刊のテーマは“諦めないで夢に向かって”なんです。大人でも、やりたいことがあっても忙しいからできない、まわりがそうさせてくれない、と言い訳しつつ諦めてしまうことって多いと思います。でも諦めるんじゃなくて、きっちり夢と向き合ってほしい。これからも、読者の方たちを励まし、“癒しを得られる場所”を提供できるような物語を書いていきたいと思います」

 あんびるさんの染み込むようにやわらかな声を聞きながら、「魔法の庭ものがたり」の世界に魅せられる親子の気持ちがわかったような気がした。魔法は使えないけれど、人の役に立ちたいという気持ちと、ハーブの力でみんなを元気にするジャレットの物語は、大人の心も解きほぐし、楽しませてくれる。「子どもの本」と決めつけずに、一度手にとってみてはどうだろう。

取材・文=月乃雫