一夫多妻制のエロハーレムが合法化された町で、本当の幸せは見つけられるか? エロくて泣ける、新感覚の“婚活”マンガ『ハレ婚。』

マンガ

更新日:2017/6/19

『ハレ婚。』(NON/講談社)

「幸せにするよ……三人目だけど」。つきあう男はことごとく既婚者、男を見る目のなさに絶望し、4年ぶりに地元に帰ってきた小春。そんな“既婚者ハンター”の彼女にプロポーズしたのは、やっぱり既婚者の怪しい男だった! 一夫多妻制のハーレム婚――略して“ハレ婚”が条例で施行されたその町で、小春は真の幸せを見つけられるのか。『ハレ婚。』(NON/講談社)は、ちょっとエロくて、ちょっと泣ける、新感覚の“婚活”マンガだ。

 あのゼクシィでさえ「結婚しなくても幸せになれるこの時代」と銘打つ昨今。それでも大好きな人と愛し愛される“幸せなお嫁さん”を夢見る女子は少なくない。主人公の小春もその一人。それなのに、仕事はうまくいかず、恋も前述のていたらく。逃げ帰ってきた実家では、父の病気と借金が判明し、実家の喫茶店はたたむことに……とふんだりけったり。

 そんな彼女との出会いを泣いて喜び、プロポーズしたのが長髪のイケメン(だがかなり変態ちっくで怪しい)伊達龍之介だった。どうやら以前から小春のことを知っているらしい彼は、家を売って3000万円を捻出してまで、小春と結婚したいという。巨乳美女のゆずと、しとやかな美女・まどかに続く3人目の妻として。

advertisement

 と、ここまで聞くと、なんだその男に都合のいいエロハーレムは! と腹立つ女性読者もいるかもしれない。もちろん、絵柄だけでなくエロい描写も多々さしこまれるのでそういう面はなきにしもあらずだが、騙されたと思って一度読んでみてほしい。不思議とそんな感情はわかないはずだ。

 理由の一つには、小春がただの“借金のために身売りさせられたかわいそうな娘”ではなく、むしろ立場は下のはずなのに自分の意見はまるでひっこめない、自由そのものだからかもしれない。彼女はとにかく、言い方はわるいが浅はかだ。実家を救うためになにをするかといえばただ店に立ってみるだけ。コーヒーの淹れ方ひとつ勉強しないし、小金を稼ぎに働くわけでもない。さらにはお金だけ受け取って、さっさと離婚すればいいかと悪びれもせずに思いつくほどの狡賢さも備えている。とにかく自分に正直すぎるのだ。いやなことはいや。好きになったら好き。だから痛い目を見ても、決して懲りることはない。友達になりたくない相手ではあるが、それって実は誰もがもつ本音だよなあ、と思ってしまうから、憎み切ることもできないのがちょっと悔しい。

 そんな小春に、龍之介は言う。「あいかわらずキミは可愛いだけの女だね」「美しいと同時に見苦しくもあるよね…無自覚な若い女って」。まったくもってそのとおりである。だから、一夫多妻なんて感情的には拒絶したいはずなのに、龍之介やその妻たちの言っていることのほうが正論に聞こえてついついうなずいてしまうのだ。

 龍之介にも、ゆずにもまどかにもあって、小春にないもの。それは覚悟だ。誰になんと言われようと、すべての妻を平等に愛する覚悟。愛する龍之介と添い遂げる覚悟。たとえ愛する人が別の女と夜の営みに励んでいるのを目の当たりにしても、それさえ受け入れる覚悟。自分の幸せは自分で決める、その腹をくくった姿勢があるから、3人はお互いを思いやり一つ屋根の下で暮らすことができる。

 だが、小春にはそれができない。

 こんなのおかしい。結婚するなら好きな人とがいい。誰かにとって、たった一人の特別になりたい。理想を声高に叫ぶだけで、行動がともなわない。そんな彼女に龍之介たちはつきつけるのだ。――幸せって、なに? と。

 もちろん小春の言っていることは理解できる。隣の部屋で別の妻とセックスしている声を聞いたその翌日に、同じ男と一緒に寝るなんてことが、受け入れられないのは無理もない。だが、覚悟のない人間に、なにも言う資格はない。奇妙な一夫多妻生活を経て、小春は少しずつ、ほんの少しずつだがそれを学び、他人を本当の意味で思いやることを知っていくのだ。

 龍之介の言葉にこんなものがある。「たとえば僕が(RPGのパーティにおける)“遊び人”で、仲間に“僧侶”と“魔法使い”がいたとしたら、あと1人は“武闘家”が欲しいでしょ?」

 人生は旅。旅は冒険。その冒険を進むには、3人の妻が全員必要なんだという龍之介。結婚だけが幸せではない今だからこそ、一夫多妻の彼らを通じて、本当の幸せとはなにかを見つめなおせるのかもしれない。

文=立花もも