限定公開中の映画も大好評!『シドニアの騎士』の弐瓶勉デビュー作『BLAME!』にアンソロ小説が登場!

マンガ

公開日:2017/5/27

『BLAME! THE ANTHOLOGY』(弐瓶勉:原作、九岡望、小川一水、野崎まど、酉島伝法、飛浩隆:著/早川書房)

 2017年5月20日より2週間限定公開中の劇場アニメ『BLAME!』。1997~2003年に講談社の『月刊アフタヌーン』で連載されていた漫画が原作の本作品は、『シドニアの騎士』で有名な弐瓶勉のデビュー作ということもあって、公開前から注目を集めていた。

 映画は、音や間、この世界で生きるキャラクター、圧倒的な迫力を誇るCG映像とすべてにおいてこだわりを持って作られていて、元々のファンだけでなく、SF好きや映画好きからの支持も厚い。

 無限に増殖し続ける「巨大階層都市」が舞台となっている本作品では、人類は制御不能となったセーフガードに敵とみなされ、駆除に怯える生活を強いられている。また、巨大階層都市には、人類の他にも「珪素生物」や「建設者」など、人間ではない、それでいて人間の制御下にない、知能を持つ者も存在する。人間が作り上げたはずのこの世界は、人間の脅威に溢れた地獄と化している。

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 そんな本作品の魅力の1つは、何といってもこのどこまで続いているのかも分からない「巨大階層都市」。見上げても見下ろしても果ての見えない広大なこの空間は、建設者によって増築と改築を繰り返されている。映画でも、そんな都市の片隅に作られた集落が描かれていたが、本作の主人公・霧亥はもっと別の場所から来たという。ただでさえ無限に思える上、セーフガードに阻まれて自由に行き来ができない都市内で“よそ者”を見かけることは珍しいようだが、それでもたしかに他にも人が存在し、生きているのだ。

 先日、そんな「こんなドラマがあるかもしれない」という5つの可能性を描いた、『BLAME! THE ANTHOLOGY』(弐瓶勉:原作、九岡望、小川一水、野崎まど、酉島伝法、飛浩隆:著/早川書房)という本が出版された。アンソロジー形式で5人のSF作家が描く5つの物語は、この『BLAME!』の世界をぐっと広げてくれる。

 例えば1つめの作品「はぐれ者のブルー」(九岡望)で描かれるのは、映画にも登場した集落に住む人々「電基漁師」の男・鈍丸と、出会うと生きて帰れないと言われている、黒く蠢く珪素生物「死体拾い」が出会う物語。鈍丸は、食糧難に喘ぐ人々が必死で食料を探し求める中、危険を顧みず1人で青い塗料を求めて都市内をうろつく“はぐれ者”だった。そして「死体拾い」も、珪素生物の中で“精神的畸形”と言われていた。この1人と1体は、最初こそ敵だったが、次第に互いがかけがえのない存在となっていく。

 2つめの作品「破綻円盤―Disc Crash―」(小川一水)では、統治局閉鎖監視哨(お休み処)で働く珪素生物の女・ルーラベルチと、巨大階層都市の出口を探すため、温度データを集めている「検温者」の両性者・夷澱の物語。この世界の維持するため、“お休み処”を訪れた人間を誘惑し、殺し続けていたルーラベルチだったが、夷澱を殺せず、逆に好き放題されてしまう。ルーラベルチは最初こそ夷澱に憎悪の念を抱いていたが、いつの間にか惚れていることに気付く。しかし――。ルーラベルチの、切ない恋の物語。

 この他にも、「乱暴な安全装置―涙の接続者支援箱―」(野崎まど)、「堕天の塔」(酉島伝法)、「射線」(飛浩隆)の3作品が収録されている。どれも時間軸は違っても巨大階層都市の中で起こったことだと思うと、他にはどんなドラマが、物語があるのだろう?と、もっともっとこの世界を覗き見てみたくなる。この都市の外側はどうなっているのか? 外に出られた人間はいるのか? 制御可能だった頃の世界は? まだまだ、読み足りない。

文=月乃雫