打ち切り漫画家が父親目線で描く、子どもを育てるということ

出産・子育て

公開日:2017/5/30

『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(富士屋カツヒト/白泉社)

 総務省統計局は5月5日の「こどもの日」にちなんで、平成29年4月1日現在における子供の数(15歳未満人口)の推計を公表した。それによれば子供の数は1571万人で、実に36年連続の減少。総人口に占める子供の割合も12.4%と、こちらも43年連続で低下している。少子高齢化が叫ばれて久しいが、こうして改めて数字を見せられると「日本、大丈夫か?」と思わずにいられない。晩婚化など出生率の低下にはさまざまな理由があるが、その中でも「育児にはお金がかかる」というのはよく耳にするところだ。まあ確かに、夫婦ふたりで精一杯なのにもうひとりなんて、という意見は理解できる。しかし『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』(富士屋カツヒト/白泉社)を読んでみれば、「もしかして何とかなるんじゃないか」という気分になれるかもしれない。

 作者の富士屋カツヒト氏は週刊誌での漫画連載を持っていたが、人気が芳しくなかったのか、たびたびネームのボツを食らい、常に締め切りに追われる日々。そんな彼に妻の「そんたん」が「子供が欲しい」と相談する。氏はいつ打ち切りになってもおかしくない不安定な状況に「こんな状況で子供なんか作ったら、生まれてくる子が可哀想だわ!!」といい放つが、妻の涙ながらの懇願に半ばヤケクソ気味で子作りしてしまう。結局、漫画は打ち切りとなるのだが、そんたんはめでたく懐妊するのであった。

 おそらく若年層の夫婦の多くは、富士屋氏の叫びに共感を覚えるはず。自分自身の将来も不安なのに、果たして子供に明るい未来を与えられるのか──そんな思いを持っているのではないか。だから作中で氏が「どうにでもなれ」という感覚で子作りしてしまうことに、反感を抱く向きもあるかもしれない。子供に対して不誠実だ、と。しかし、本当にそうなのか。それは以降の彼の行動を見れば分かる。

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 富士屋氏は次の連載が決まらないまま、美術模型の制作会社に雇われる。ほとんど大工仕事と変わらないその仕事に、慣れない氏は苦戦の連続。「死」が一瞬頭をよぎるも、生まれてくる子供のことを考えて奮起するのだった。もしも彼が独り身で、妻が子供を身ごもっていなければ、そのまま「死」を選んでいた可能性もある。辛いときに自らを支えてくれる存在があるということは、それだけで救いになるはずだ。

 その後、無事に子供が生まれ、富士屋氏はめでたく父親となった。しかし大工仕事はうまくいかず、結局辞めてしまうことに。それでも今度はできることをしようと、漫画家のアシスタントを始める。今までなら仕事を失ってから自分を奮い立たせるのに時間がかかったと氏はいう。しかし今回、すばやく次へ行動できたのは子供が生まれ「人生の主役が変わった」からで、自分のためでなく子供のためにという想いが、彼の思考を前向きにしていたのであろう。

 前向き思考は好循環を呼び、アシスタント先の漫画家が富士屋氏のことを知り合いの編集者に話したところ、先方が興味を持ったという。その後、すぐにその編集者から氏へ連絡が入り、このエッセイ漫画の話が持ちかけられるのである。いつの間にか、彼は父親として家族を支えていた。漫画ではそんたんが「子供はお金を稼がせる」という話をするエピソードがあるが、むしろ「子供が稼がせてくれる」というべきか。

 もしも子供がいなかったら、負のスパイラルから抜け出せなかったかもしれない。子供ができ、自分のことがいい意味でどうでもよくなってきたことで、気持ちが楽になって前向きになれたのだ。今、自分の状況を辛く感じている人で、子供が作れる環境にあるなら、考えてみてはどうだろうか。まあ私のように、相手もいないのではどうしようもないけどな!

文=木谷誠