いじめや性…。子どもが直面する問題を解決するには? 『どうなってるんだろう? 子どもの法律』【著者インタビュー 前編】

出産・子育て

2017/6/2

『どうなってるんだろう? 子どもの法律~一人で悩まないで!~』(山下敏雅、渡辺雅之:著、葛西映子:イラスト/高文研)

 キャメロン・ディアス主演で映画化もされた『私の中のあなた』(早川書房)という物語がある。白血病の姉のドナーになるために遺伝子操作で生まれた妹が、臓器提供を拒んで親を提訴するストーリーだが、作中で11歳の妹・アナは敏腕弁護士を雇い戦っていた。

 だが現実の世界では、子どもが弁護士に依頼するのは難しい(と思われる)。お金や人脈、知識が乏しく、弁護士と繋がる手段が見つからないことが多いからだ。それどころか学校でのいじめやバイト先のパワハラ、奨学金返済問題などに直面しても「自分が我慢すればおさまる」と一人で抱え込んでしまったり、自分を責めてしまったりする子どもも多い。

 弁護士の山下敏雅さんは、そんな悩める子どもたちに向けて2013年より「どうなってるんだろう? 子どもの法律」(http://ymlaw.txt-nifty.com/)というブログを開設し、「ケータイを持ちたいが親が保証人になってくれない」「先生が体罰をやめない」など、子どもだからこそ直面する問題に向き合ってきた。しかしずっと、子どもたちに直接届いていないのではないかという疑問も抱えていた。そこで学生時代の友人に相談したところ、大東文化大学教職課程センター准教授でいじめ問題に取り組んできた渡辺雅之さんを紹介され、渡辺さんによる解説と内容を加筆した『どうなってるんだろう? 子どもの法律~一人で悩まないで!~』(山下敏雅、渡辺雅之:著、葛西映子:イラスト/高文研)を出版することが叶った。そこで2人に、お話を伺った。

ネットの法律情報には、根拠のないものが多い

 同書は家庭や学校、労働など5章39項目にわたり、子どもが直面する問題に触れている。なかでも性をテーマにした第3章ではHIVや同性愛、性同一性障害なども取り上げているが、これは山下さんが2003年に弁護士登録をして以来、LGBT支援に関わってきたことが大きい。

山下:「LGBTや第2章の在日コリアンなど、マイノリティの話を意識的に取り上げたのは、いじめ問題とリンクするからです。人は違った属性を持つ他者を排除してしまいがちですが、実際は誰もがともに繋がりながら生きているということを、子どもたちに伝えたかった。LGBTに関してはネットで容易に情報が得られるようになっていますが、それでもまだ当事者の多くが周囲からの理解が得られず、苦しんでいる現実があります。またHIVや性感染症、妊娠などについての正しい知識を親や周りの大人から教えられている子どもは多くなく、逆にネットで拾える法律情報には根拠のないものが多い。だから子どもたちがセクシュアリティや自分自身を理解するために必要なことや、知っておくと一人で悩まずに済む法律的な知識を伝えたくてブログを始めました」

 構成内容は2人で話し合いながら進めていったが、作っているうちに「この本は子どもだけではなく、大人にこそ読んでほしい」と思うようになったそうだ。

渡辺:「子どもが読んで“弁護士さんに相談して裁判を起こそう”と自分から動くのは、やはり難しいところがあるのではないか。だからたとえば公民館や図書館や児童養護施設の職員など、子どもの近くで働く大人に手に取ってもらえたらと思います。悩みを抱える子どもの、問題解決の糸口が見つかるのではないかと思うからです」

 渡辺さんはすべての項目に力を注ぎながらも、第5章の「労働」に一番力を込めたと語る。

渡辺:「僕は教師なので“第1章の『学校』じゃないの?”と意外に思うかもしれませんが、労働問題には今の日本の状況が凝縮されています。バイト先でミスして給料を引かれる、生活保護受給家庭はアルバイトをしてはいけないのかなど、子どもにとっても労働は身近な問題です。
 働くことには自分の生活を成り立たせるという側面と、社会と繋がるという側面があるにもかかわらず、その要素をことごとく奪い取られた環境下で働いている人たちがいます。彼らは『自分が悪い』わけではありません。しかし、現状は自己責任論が蔓延しています。子どもたちにその自己責任論が染みついてしまうと、路上生活者を蔑んだり、失敗した時に激しく自分を責めてしまったりするようになりかねません。そういったことからも、労働問題には今の日本社会の問題が詰まっている気がします。僕は働くことは苦しくて大変なこともあるけど、『希望』もあるはずだと信じているので、5章については強い思い入れがあります」

山下敏雅さん(左)と、渡辺雅之さん(右)

(続きは後編にて)

取材・文=今井順梨