ダ・ヴィンチ本誌で、鳥飼茜のマンガ連載『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』スタート! ■記念対談(後編) 岸田繁(くるり)×鳥飼茜

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更新日:2017/6/8

鳥飼作品はハードコアです

岸田 『じごガー』について、もう少しおうかがいしたいんです。3人の女の人、加南さん、悠里さん、奈央さんでは、誰が一番鳥飼さんに近いですか?

鳥飼 うーん、難しいですね。一番遠いのは、悠里さんです。彼女は憧れなんです。こういう友達が何人かいて、めっちゃ憧れてるんです。「早く寿命、終えたい」とか普通に言っていて。

岸田 最初に眉間に縦皺寄ってるの、すごくいいですよね。あれ、僕も気ぃつけよ思いました(笑)。悠里さんは、僕の近しい人にはいないタイプかもしれませんね。

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鳥飼 彼女はやっぱりアーティスト気質ではないんですよね。手堅いオフィスワーカー。そういう人って、独特のタフさがありますよね。友達も、日曜日に変質者が家に来たことがあったらしいんですけど、それでも全然ビビらないんです。マッサージ行った後に警察に届けたとか(笑)。毎日満員電車で通勤してオフィスでハードに働いていたら、おそらく他人をいちいち気にしていられないんじゃないでしょうか。私は真逆で、いちいち気になるタイプ。電車で変な人がいたら即座に気付いちゃう。

岸田 鳥飼さんは人間観察力がすごいですよね。

鳥飼 観察っていうか目に入ってきちゃうんです。

岸田 僕も何ていうかな、人の弱点を見つけようとは思ってへんのに、目に入ってしまうんですよ。

鳥飼 私もそれやりすぎたんです。やりすぎて、何でみんな私のようにしないんだろうと、高慢にも思うようになってしまった。それで、暫定的に分類して自分を納得させるようにして。あの人は水瓶座だから、ああいうところがあるんだ、みたいな。/p>

岸田 それ僕もやります。ほんまに暫定的に。感覚に振り回されすぎるので、データ主義にならないと生きていけないんですよね。

鳥飼 そうなんです。そうしているうちに次第に、人それぞれ違う正義があるという視点を持てるようになって。そこから新しく描けるものも出てきましたね。それともう一つ。最初のお話にもつながるんですけど、私、本来相手と伝え合いたいのはシンプルな言葉なのに、その過程の枝葉がやたら気になっちゃうんです。

岸田 僕もそれで言い争いが絶えなかった。『上海蟹』を書いた頃は、「生きていくことは何て辛いんだろう」と毎日思っていました。

鳥飼 『上海蟹』はそれまでのくるりと違って、言葉が強いですよね。その吹っ切れた感じに、やっぱり持っていかれたんだと思います。新連載の『マンダリン~』も、ちょっと強めな世界観で描きたいと思っているんです。

岸田 “ハードコア”って言いますけど、あらためて本来の意味を考えると、“一番中心”ってことじゃないですか。鳥飼さんの作品って、その点においてまさに“ハードコア”ですよね。“人間観察のハードコア”やし。

鳥飼 『マンダリン~』は、正直まだどこへ着地するか全然わかりません。これまでのような、現実を描く方法には行き詰まってしまったんですね。現実を描いていても、決して社会はよくならない。そのことに気づいてしまった。結局、現実の描写だけでは、自分と同じ考えを持った人にしか読んでもらえないんじゃないかと思うんです。『マンダリン~』では、理想そのものではないけど、理想半分、不安や懸念半分みたいな世界を自分の力で作り出してみたいと思います。それが創作やし、それに挑戦して初めて、より多くの人の心を動かすことができるのかなと思っています。

岸田 今日一番、ドーンと心に響きました。ほんまにそうですね。その通りやと思います。


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    CD『岸田繁「交響曲第一番」初演』ジャケット
    岸田繁「交響曲第一番」初演』
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取材・文=松井美緒 写真=冨永智子