もしも魔王に優秀な秘書がいたら……? 魔王軍のネガな部分を潰していけば、世界征服など楽勝!?

マンガ

公開日:2017/6/7

『魔王の秘書(1)』(鴨鍋かもつ/泰文堂)

 いわゆるファンタジー世界を描くにあたり、「勇者と魔王」というテーマは王道である。超有名RPG「ドラゴンクエスト」シリーズあたりで、その関係性を知った人も多いのではなかろうか。魔王の恐怖が支配する世界で、人間を救うため勇者が立ち上がり、仲間と共に魔王討伐の旅に出る──大体このような流れだ。およその場合、非力な人類が勇者たちの活躍のおかげで劣勢を覆し、魔王討伐に成功するわけだが、なぜそんなことになるのか。

 物語の多くは「人間視点」で描かれており、まあ人類が勝利するのは既定路線といってしまえばそれまでだが、それにしても魔王軍はお粗末すぎるのではないか。「狩ってくれ」といわんばかりに人間の町の周囲を徘徊する低レベルモンスターや、堂々と単騎で勇者ご一行を待ち受ける魔王など、まるで勇者の勝利をお膳立てしている感すらある。だが、もしもそんな「ツッコミどころ満載な部分」を指摘する者が現れたら……?

魔王の秘書(1)』(鴨鍋かもつ/泰文堂)は、魔王軍にさらわれてきた人間の秘書が、魔王の秘書となって人間界の征服を画策するというファンタジー系ギャグ漫画だ。

「光の勇者」の誕生と共に復活した「闇の魔王」は、敵を知るため部下に人間をさらわせる。その中にひとり、風変わりな捕虜がいた。元は国王の秘書だったというその女性は、魔王の前で「命が惜しいので腹をくくった」と忠誠を誓う。そして自らを「秘書」として雇用するよう持ちかけるのであった──これが物語の導入である。

 魔王を前にしても一向に怯む様子を見せない「秘書」は、人間の国王もその存在をもてあましていたほどの仕事人間。「約三日で世界征服完了」と、勇者の故郷を襲撃したり、魔物を高レベルと低レベルで明確に分業させたりするなど、効率よく人間界を制圧する作戦を提案していく。疫病を流行らせて人間を弱体化させるような作戦には、あまりの無慈悲ぶりに魔物が人間に同情してしまうほどだ。しかしこれはあくまで魔王軍が理想の状態である場合の話。軍の強化はまだ道半ばなのである。

 さて、軍を強化するには何が一番手っ取り早いかといえば、やはり魔物の数を増やすこと。魔王がいうには、魔物は人間との間に子を成すことができ、その魔物は人間の知能をある程度受け継いで生まれるらしい。この流れ……、もしや「秘書」が魔物を増やすため自らの体をうんたらかんたらという、ヘタすればR18の展開なのでは!? しかし「秘書」は開口一番「お仕えしてすぐ産休に入るわけにはいかないので無理です」。男性読者ならば多少なりとも期待したであろうシチュエーションが、木っ端微塵に粉砕された瞬間であった。

 もちろん「秘書」が子供を産まなくとも、魔王軍の強化は達成できる。軍に属さない「野良の魔物」を雇用するのだ。しかしあくまで魔王軍にとって有益な人材でなければならないので、魔王や「秘書」たちによる面接が行なわれる。さらに増えた魔物たちへの研修や福利厚生などが「秘書」によって細かく指示され、いつしか彼女は魔物たちからも一目置かれる存在となっていくのであった。

 しかしなぜ「秘書」は人間でありながら、魔王の世界征服に手を貸すのか。それは彼女の生い立ちに理由がある。実は「秘書」は孤児として施設で育ち、辛酸をなめながら生きてきた人間であり、そもそも自分の名前すら持っていなかった。だから魔王が世界征服を達成したときの褒美として彼女が望んだのは「魔王から名を賜る」ことだ。なるほど、人の世で地獄を見てきたゆえにその滅亡を望むのは、十分な動機であろう。

 そういえば最近、とあるカップラーメンのCMで勇者一行が魔王に与するようなシチュエーションを見かけたが、過去には魔王の側から描かれた作品というのもなくはない。しかし「魔王の秘書」が軍制改革を果たして世界征服に挑むというのは稀有かも。今後、勇者とどのような戦いが繰り広げられるか気になるが、きっと魔王もビビる展開が待っているはずだ。ただし、あくまで本作は「ギャグ漫画」なのでお忘れなきよう。

文=木谷誠