「王室教師ハイネ」OPアーティスト・阪本奨悟インタビュー「歌詞を書くって恥ずかしいことの連続。何度も“なかったことにしよう”と思った」

アニメ

公開日:2017/6/5

 透き通るような歌声から、思いがけず、ぐっと強い意志が伝わってきてドキドキ。それが、TVアニメ「王室教師ハイネ」のオープニング曲「しょっぱい涙」を聴いた時の印象だった。5月31日、シンガーソングライター・阪本奨悟が、この曲を含む両A面シングル「鼻声/しょっぱい涙」でメジャーデビューを果たした。1曲は恋、もう1曲は絆をテーマに、大切な人へのあふれる愛情を等身大の言葉で綴った2曲。そこに込められた想いとは――。

プロフィール:
さかもと・しょうご●1993年6月13日生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター。ミュージカル「テニスの王子様」などに出演し、役者としての将来を期待されるも、音楽への強い想いから東京を離れ、地元の兵庫で音楽活動を開始。2年間の自主活動を経て、2014年からシンガーソングライターとして東京での活動を再開。5月31日、両A面シングル「鼻声/しょっぱい涙」でメジャーデビューを果たした。

いい曲を作りたいという想いだけを抱いて

――メジャーデビューはどのように決まったのでしょうか。

advertisement

阪本:昨年(2016年)8月くらいには話が持ち上がっていたんですが、僕はまだシンガーソングライターとしての引き出しが少なかったし、楽曲も熟していなかったので、しばらくはじっくりと曲作りをして、秋あたりからシングルの制作が始まりました。どういう形でデビューするかは決まっていなくて、とにかくクオリティの高い曲を作りたいという気持ちだけで制作に入っていった感じでしたね。

――引き出しが足りないというのは、どんな部分でしょう。

阪本:歌詞の部分ですね。聴いてくださる方にちゃんと届くものをまだまだ描き切れていない気がして。それもあって、制作が始まってから、プロデューサーさんが「一緒にスタジオに入って曲を作ってみようよ」と一緒に作業をすることを引き受けてくださったんです。これまでの曲や今回の2曲を聴いていただいて、一緒に歌詞を仕上げていきました。自分にはない発想ばかりで、本当に刺激的でしたね。

――1曲目の「鼻声」は好きな人への気持ちが赤裸々に綴られた曲。曲を聴いたプロデューサーから、どんなことを言われましたか。

阪本:「好きだよ 好きだよ」というサビの最初のメロディがすごくいいから、そこを残しつつ、「もっと奨悟の実体験やリアルな歌詞を組み込んでいこう」という話になりました。

――元の歌詞は、全く別の内容だったということ?

阪本:そうです。“女歌(おんなうた)”に挑戦してみたいという気持ちがあって、最初は女性目線の歌詞を書いていたんですよ。でも、まずはシンガーソングライターとして、自分の感じてきたことをストレートに届けるというスタンダードにトライしていこうと。そこで、僕がこれまでにどういう女の子を好きになってきたのか、その子にどういう特徴があったのかを話して。「会うたびに鼻声だったんですよね」という話をしたら、すごくいいねということで、それがタイトルに。

――これまで、歌詞に実体験を入れたことは?

阪本:心に残ることは入れてきました。でも、ここまで生々しく剥き出しにしたことはなくて。しかも、すごく恥ずかしいエピソードだったので(笑)。リアルに描けたとは思います。

僕の歌をアニメソングとして覚えてもらえたら嬉しい

――2曲目の「しょっぱい涙」では、どんな話し合いがあったのでしょうか。

阪本:すでに“絆”というテーマで書いていたんですけど、変に綺麗にまとまっていたというか、言葉にリアリティがないなと感じていて。でも、「たとえば、奨悟の学生時代に絆はあったの?」と聞かれて即答できなかったんです。

――身をもって絆を感じたことはなかった?

阪本:高校2年の時に転校したんですけど、うまく人と打ち解けられなくて。本当は寂しいのに友だちは作らないって強がって、学校に行かずに公園でボーッとしていたことがあるんですよ。絆ってなんだろうなって考えるほど、あの時の自分に行き着くんですよね。だから絆そのものではなく、絆を模索しながらもがいている姿を書いていきました。

――高校時代のリアルな想いが描かれているんですね。

阪本:僕なりの表現はできたと思っています。

――この曲は「王室教師ハイネ」のOP曲でもあります。ご自身の体験がもとになっているのに、アニメの世界観ともはまっている印象がありますね。

阪本:あの頃は、いちばん近くで自分を見てくれている家族からも逃げていたんです。1人で勝手に生きるから関与しないでほしいと強がって。今思えばただの反抗期ですけど(笑)。そんな姿が、ハイネと王子たちの姿とつながった気がしたんですよね。

――サウンドは、アニメのオープニングにふさわしく耳なじみの良い仕上がりに。メロディの制作はどのように?

阪本:この曲については、ルーパーっていう機材で面白くアレンジできる曲を作りたくて。「たたった〜た…♪」っていうイントロが最初に浮かんできたので、そこから作り始めたんですよね。ルーパーって昨年の夏くらいから使ってるんですけど、自分で演奏している音がすぐに録音されて聴けるので、その上から違うフレーズをどんどん乗せていけるんですよ。エド・シーランっていう海外のアーティストがたった1人でルーパーを駆使してライブをしたりして、カッコいいなと思って。僕もシンガーソングライターとして、1人でステージに立っているので。

――いつもとは違う曲作りに挑戦されたのですね。オープニング映像でも、アニメの世界観と曲がきっちりフィットしている感じがしました。

阪本:放送を観た時は、夢みたいでしたね(笑)。僕はアニメが大好きで、毎クールの深夜アニメをチェックしてるくらいなんですよ。「ハイネ」は原作も読んで大好きだったので、あのキャラクターたちと一緒に自分の曲が流れているということが嬉しくて。自分も小さい頃に「幽☆遊☆白書」や「ONE PIECE」の主題歌を覚えて自然と歌ってましたし、もし僕の歌をアニメソングとして覚えてくださる方がいたら…と思うとワクワクします。

――「王室教師ハイネ」のどんなところが好きですか?

阪本:4人の王子の個性があふれていて、みんなかわいいなと思います(笑)。特にレオンハルトは、ツンツンしてるのに中身がすごく純粋で、子どもみたいで。同性だけど、もしレオンハルトみたいな弟がいたら、すっごくキュンキュンしちゃうんだろうなと思いますね(笑)。

――アニメの放送前には、アニメイベントにも出演されていましたね。キャストのみなさんと一緒に。

阪本:本当にあたたかいイベントでした。キャストのみなさんも、来てくださった方々も。ステージがキラキラしてましたね。あんなにロイヤルなステージで歌ったことがなかったので、その日は僕も衣装を新調していきました(笑)。キャストのみなさんからは、「『しょっぱい涙』が大好きです」とも言っていただいて。すごく楽しかったですね。

ライブでは歌で会話を楽しみたい

――これから曲を披露されることも増えると思います。阪本さんが歌う姿からは、その繊細な歌声からは想像できないほどパワフルな魂がぶつかってくるのを感じます。ライブでは何を思いながらステージに立っているのですか?

阪本:お客さんと歌で会話することを心がけてます。歌を通して自分の言葉を伝えているので。実際の会話だと、相手の距離感を意識するじゃないですか。それによってトーンも変わるわけで。だから、横浜アリーナのいちばん後ろの人に向けて歌う時と、10メートル先にいる人に歌う時のトーンは変えるし、お客さんの目を見ながら、その人に向けて歌を届けることを意識しています。ただ歌って自分で気持ち良くなるだけでは伝わらないと思うし、それはお客さんにもわかってしまうことだと思うんですよ。

――歌は会話と同じだと。ずっと歌ってきて良かったと感じるのはどんな時?

阪本:歌詞を書くのって、恥ずかしいことや怖いことの連続なんですよね。このシングルの2曲も、夜な夜な書いたものを朝見返して、“なかったことにしよう”と思ったことが何度もありました。そんな言葉でも、受け止めてもらえると自分自身が救われるし、自分の弱い部分が剥き出しになった時ほど、共感してもらうことで強くなれる気がするし、やり甲斐を感じます。

――その言葉を伝えるためにメロディを作るという、シンガーソングライターならではの楽しみもありそうです。

阪本:それは本当にそうで、その楽しさはすごくありますね。メロディは何パターンも考えるんですけど、本当に無限大といいますか、いろんな可能性を持つぶん、個性が求められる作業だと思います。

――メジャーデビューを目前に、これから目指したい場所は見えてきましたか?

阪本:まずは全国ツアーを目指したいです。「全国阪本化計画」と題したライブイベントを各地で展開して、自分の足でたくさんの場所に行って歌を届けているので、まずは日本中を回ることが次のステップにつながるんじゃないかと思います。それと、役者をやめて音楽を始めた頃に、当時のスタッフに完全に慢心で「僕は武道館に行けるアーティストなんです」って言ってしまったんですよ。今ではそれは何がなんでも実現しないといけないなと思ってます。

――信念を貫き通すことは簡単ではないと思います。それを成し遂げた阪本さんから、夢を追っている人たちにアドバイスをするとしたら、どんなことでしょうか。

阪本:僕もまだ夢を追っている身ではありますが…。支えてくださっている人たちへの感謝の気持ちを、忘れちゃいけないなと思うんですよね。僕は、何も希望がないところから1人で音楽を始めたから、応援してくれている家族や友人の気持ちに気づいた時は、本当にありがたくて。根本的なことかもしれませんが、感謝の気持ちを忘れなければ、どこかでつまづいても立ち上がれるのかなと思います。

阪本奨悟

阪本奨悟 オフィシャルサイト
デビューシングル「鼻声/しょっぱい涙」発売中!

取材・文=吉田有希