元AKB48が広告塔のファッションブランド「ricori」が消えた裏で何があったのか?

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更新日:2017/7/3

『あの会社はこうして潰れた』(藤森徹/日本経済新聞社)

 読者は、元AKB48のメンバー、Sが監修・デザインしていたファッションブランド「ricori」を覚えているだろうか。同ブランドを扱うアパレル企業「リゴレ」は2014年7月に営業を停止。現在も再開の見通しは立たず、このまま休眠企業になる可能性が高いという。

「AKB48」という看板を引っ提げ、新宿のルミネエスト、梅田の「HEP FIVE」、福岡の博多阪急といった有名どころに出店し、当時勢いに乗っていた「ricori」ブランドだったが、その華々しさの裏で何があったのか。企業信用調査マン、藤森徹氏の著書『あの会社はこうして潰れた』(藤森徹/日本経済新聞社)よりご紹介したい。

「ricori」は洋服、靴、アクセサリーを中心に、AKB48のファン層である10~20代の女性を主なターゲットとして展開していた。Sの知名度こそが最大の強みだが、同時にファッション関係者から「アパレルとしては際立った特徴がない」との指摘もあった。それでもSの影響力のおかげで、上記3地域に出店。帝国データバンクが2013年夏に実施した信用調査では、月商5000万~6000万円。年間の売上高は、新興アパレルとしては強気の8億円程度を目指すとしていた。

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 一方で、「いくら知名度あるタレントが関わっているといえど、出店ペースが速すぎるのでは?」という指摘もあった。リゴレ設立から半年たった時点において、金融機関からの資金調達はなく、経営者の個人的な関係から調達していたようだ。通常、新店舗出店などの設備投資であれば、短期で回収される恐れのない金融機関から長期借入金で調達する。華やかな印象とは裏腹に、資金繰りを懸念する声があった。

 2014年7月、「破たんに向けた動きがあるようだ」との情報が帝国データバンクに突然届く。確認のためリゴレ本社に電話をするが、虚しい呼び出し音が鳴り響くばかり。資金繰りの懸念がまさに的中した瞬間だった。

 Sの知名度を武器に、各種メディアに大きく取り上げられた「ricori」。しかしタレントを広告塔にする場合、タレント事務所に払うギャランティー、広告宣伝費、販促イベントの人件費などの費用がかさむ。これらのコストを上乗せして商品の価格を設定しなければならず、広告塔が消費者に飽きられた場合、収益が非常に厳しくなる。

 事業の安定性を考えると、話題のブランドがいずれ消えたとしても、企業としてやっていける体力が備わっているかどうかが重要だ。定番商品が存在し、売れている。もしくは話題のブランドを複数抱えている状態が望ましい。その点において、リゴレは「ricori」ブランドしかなかったことが致命傷となった。タレントの知名度だけが強みの単独ブランドに依存するビジネスモデルは、長くは続かなったようだ。

 日々テレビや新聞を目にしている方であれば、「○○社が潰れた」というニュースにふれることも少なくないだろう。しかし「なぜ潰れたのか」「内部で何があったのか」までは分からないことが多い。本書には、私たちが知っているあの企業から、あまり知名度のない中小企業まで、30社以上の潰れた「真実」が詳細に書かれている。どこかの企業に勤めるビジネスマンであれば、明日はわが社かもしれない日本の社会事情を鑑みて、ぜひ手にとってみてほしい。

文=いのうえゆきひろ