ひとつ願いを叶える代わりに、いただくのは「少女の肉体」――。淫欲な悪魔と孤独な少女が織りなす、「異端」な愛憎劇の行方は?

マンガ

更新日:2017/7/3

『この愛は、異端』(森山絵凪/白泉社)

 古来より“悪魔”との契約は危険なものとされている。彼らと契りを結んだ者は圧倒的な力を得る代償として、その身を捧げなければならないのだ。そんな悪魔との契約をテーマにした異色のラブストーリーが、いま話題を集めている。5月29日(月)に第1巻が発売されたばかりの『この愛は、異端』(森山絵凪/白泉社)だ。

 本作は、5000年に1人と称される美しい魂の持ち主である少女・淑乃と、彼女が自ら呼び出してしまった淫欲の悪魔・ベリアルとの歪な愛憎劇を描いた作品である。

 事故で両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされてしまった淑乃。孤独感に打ちひしがれる彼女は、ある時、古書店で「悪魔召喚」の書物を見つける。藁にもすがりたいほど絶望していた彼女は、うかつにも悪魔を召喚してしまう。そこで呼び出されたのがベリアル。彼は淑乃に契約を迫るが――。

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 本来、悪魔との契約は「何でも願いを叶える代わりに、寿命と死後の魂を譲渡する」というもの。しかし、ベリアルは特別にもうひとつの契約内容を提案する。それは「ひとつの願いを叶えるたびに、ひとつの対価を支払う。そして、死ぬまでずっと行動をともにする」というもの。その対価とは、肉体だ。

 けれど、淑乃は決断できない。恐ろしい悪魔を前にして、身の上話を打ち明け、散々愚痴り、涙を流す。それにほだされてしまったのか、ベリアルは「18歳までは普通の口づけのみ、18歳からは舌を入れ、20歳を超えたら愛撫も加える」ことで譲歩する。

 そこからふたりの生活がスタートする。家族の愛情に飢えている淑乃にとって、悪魔といえども誰かがいる暮らしは心地よいもの。一緒にご飯を食べ、ケンカをし、枕をともにする。それがこんなに愛情深いものだなんて、忘れかけていたのだろう。やがて、淑乃はベリアルに心を許すようになっていく。

 しかし、やはりベリアルは悪魔でしかない。淑乃に思いを寄せる男性・旭の存在に気づくと、異形の力をもって彼を排除しようとする。それも少しずつジワジワと精神を蝕むように。また、お盆に帰ってきた淑乃の両親の霊魂に対しては、「お前たちの娘は悪魔に魂を売った。普通の幸福を望んでも無駄だ」と冷酷に言い放つ。その根底にあるのは、彼女への執着心。読者の目にはそれが非常に恐ろしいものとして映るだろう。

 けれど、愛情に執着はつきものではないだろうか。恋人を束縛し、ヤキモチを焼く。普段、僕らがしてしまいがちな行為と、ベリアルのそれとは本質的にイコールなのではないか。そう、本作は「愛情とは何か」を徹底的に突き詰め、描ききっている物語なのだ。

 また、本作の見どころはもうひとつ。それは森山さんの圧倒的な画力だ。耽美な筆致により描かれる淑乃やベリアルは、息を呑むほどに美しい。そして、脆さを感じる。それがまた、退廃的な世界観の構築に一役買っていることは言うまでもないだろう。

 「異端」な愛情を描く意欲作。それに慄くのか共感するのかは、読み手がどんな愛を経験してきたかによって左右されるかもしれない。

文=五十嵐 大