80年代「オマケシール」の魅力とは!? ビックリドッキリ秘伝必殺要塞伝説!

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公開日:2017/6/16

『80年代オマケシール大百科』(サデスパー堀野/いそっぷ社)

 今を遡ること約30年前、ロッテの「ビックリマンチョコ~悪魔vs天使シール」が巻き起こした「オマケシール」ブーム。「ガムラツイスト」「秘伝忍法帳」「ネクロスの要塞」「バトル騎士」「ドキドキ学園」……追い切れないほどの種類の商品が駄菓子屋に並んだ。熱狂は過熱加速し、子どもがシールだけ抜いてスナックを捨ててしまうというカルビー仮面ライダースナック以来の社会問題まで起こった。

 駄菓子屋で一喜一憂しながら集めた手のひらサイズのシールには、ぼくらの想像力と収集欲を刺激してやまないナニカが詰まっていた。懐かしさとともに、オマケシールの魅力のヒミツを探ってみよう。テキストは『80年代オマケシール大百科』(サデスパー堀野/いそっぷ社)。副読本は『ドッキリマン大百科』『パチシールアルバム大百科』(ケチャップアーツ:企画・構成、Die:文/ケチャップアーツ)だ。

■「貼る」よりも「集め」たくなる無限の世界観!

 『80年代オマケシール大百科』には、実に83タイトルと1108枚もの貴重なシールが掲載されている。作品ごとの設定や世界観、キャラクターたちの相関図、当時のムーブメントや裏話などが実にマニアックに紹介されており、ページをめくるたびにココロは80年代へと遡ってゆく。

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 中には存在すら知らなかった商品もあるのだが、数々のシールを眺めていると、後続メーカーの知恵や工夫が見えてきて興味深い。

 カネボウ食品と子会社のベルフーズが「必殺ガムラツイスト」「ラーメンばあ」の2つの商品で同時展開し、大人気となった「レスラー軍団Wシール」は、正規軍と覆面軍などの各団体に所属するレスラーたちの抗争を描くプロレスもの。レスラーたちは、神話、伝説、ドラゴン、女学生、SFメカなどなんでも来いや!の自由な世界観だ。Wシールは2枚重ね(途中からトリプルシール)で、1枚めがキャラ、2枚めがストーリーのイラストとなっており、第30弾まで続く壮大なSFプロレスオデッセイを見事完結させた。

 フルタ製菓「ドキドキ学園チョコ」の「開運軍団vs妖怪軍団シール」は、神話や妖怪などをモチーフにしているため「ビックリマン」に似た雰囲気もあるが、「45日おき」というハイペースで新シリーズが登場し、ホログラムやプリズム、スパーク、ラックスなどといった「特殊シール」の多彩さで子どもたちの人気を集めた。

 エスキモー「秘伝忍法帳」は和洋のファンタジーをミックスさせた「忍者」、マーメイド「バトル騎士」は西洋風の騎士vs.ドラゴンがモチーフと、様々な世界観の商品が登場した。元祖である「ビックリマン」が世界中の神話やおとぎ話、森羅万象を広くベースにしたことで、後発の商品はその差別化のために「ひねり」を求められたのだ。

 また、本家ロッテも日本史パロディの「あっぱれ大将軍」や、広井王子氏が企画に参加していたテーブルトークRPGが遊べる「ネクロスの要塞」などを送り出した。

 多様・多彩なジャンル、シール1枚では完結しない世界観が、オマケシールを「貼って遊ぶもの」から「集めて楽しむ」ものへと変え、熱狂的なブームを巻き起こしたのだ。

■「ドッキリマン」ってなんなのさ?

 過熱するオマケシールブームは、実に味わい深い「パチモノ」を生み出した。それが1枚20円の引き物くじを中心に展開した「ドッキリマン」(入船堂産業)である。

 ビックリに対してドッキリというだけでもうパクリ臭がハンパないのだが、『ドッキリマン大百科』に収録された11シリーズ533種を見れば、実にオリジナリティあふれる世界観であることがよくわかる。

「魔界vs.天界(+お助け)」という三すくみの構造と、ゼウスとデビルというヘッドキャラこそ「ビックリマン」を想起させるものの、シールのキャラクターたちは、良い意味で「低俗」だ。テレビやゲーム・スポーツなど、子どもたちの好きなモノならなんでもアリで、3つの勢力のモチーフに巧みに取り込んでいる。

「コアラ魔・ラッコら助(しょ)・パンダら観音」「教育魔魔・ふぁみ根ピー助・タカハシ明神」など、当時のブームを反映したものや、「ガメ大魔王・キノピノ助・超人マリオ」という名前もイラストも違法スレスレのキャラ。「魔人22面相・ちょこの助・探偵王法務王」の説明には「はられたら死ぬで~」という、あの事件までも取り込んでいるブラックなテイスト。この駄菓子屋感覚・肌触りが「ドッキリマン」の魅力なのだ。

■レアリティと保存という意識改革

 そして、オマケシールブームは子どもたちのコレクター意識を一歩進化させた。キラシールなどの特殊加工シールの登場で「レアリティ」が明示された。貴重なレアシールは宝物であり、輪ゴムでまとめていると角が折れ、キズが付き、台紙との間にホコリが入ってしまう。ロッテの公式アルバムもあったが、空き袋+切手200円を送るという手間がかかる。そこで、駄菓子屋アイテムとして「パチアルバム」が登場する。

『パチシールアルバム大百科』を見てみると、当初は、ビックリマンのイラストを無許可で使用した完全にアウトなアルバムが販売されていたことがわかる。だが、ニセモノ問題にロッテが本腰を入れたことの影響もあって、オリジナル風(あくまでも“風”)アルバムへと変化していく。そのイラストの変化は、本物から遠ざけようと陳腐に「退化」していく上に、商品名も「ビックリアルバム」「びっくり!!アルバム」などと本家を匂わせるものや、「高級アルバム」「DELUXE SEAL ALUBM」「LUXURY ALBUM」など、眺めているだけでこみ上げくるものがある。

 懐かしくなったあなた。本稿で紹介した書籍で往年の商品を懐かしむもよし。実家に帰って、仕舞い込んでいた“ゴムくくりの束”を探すもよし。柱やタンスに貼ってある「ハズレ」シールを見るのもよし。すぐにあの頃に戻れるはず。

 駄菓子屋で封を開けたときのあの感覚は、今もぼくらの胸に貼り付いたまま、キラキラと輝いているのだから。

文=水陶マコト