空気が読めない、同じ失敗を繰り返す…「発達障害」への誤解で病院では思い込み受診も増加!?  正しく理解するには?

生活

更新日:2017/6/16

『発達障害』(岩波明/文藝春秋)

 先日、NHKで放送された『NHKスペシャル 発達障害』が話題だ。発達障害の方にとっての「見る・聴く」がどんな状況かの具体的な検証などが大きな反響をよんだ。今後、NHKでは発達障害に注目していくようで、翌日の『あさイチ』でも引き続き特集された。どちらも印象的だったのは、発達障害をどう理解して共存していくのかという姿勢だった。これは発達障害を「ニューロダイバーシティ(脳の多様性)」と捉えて向き合うという、いまどきの潮流を意識した流れでもある。

 番組では発達障害を大きく3つの分野「ASD(自閉症スペクトラム障害)」「ADHD(注意欠陥多動性障害)」「LD(学習障害)」にわけ、実際にはそれぞれの領域が複雑に絡み合う症状があると解説していた。各症例をポイントでさらう程度だったのは残念だが、初期のガイドとしてはわかりやすいのは確か。ただし単純化しすぎると、気になる症状をつなぎあわせて「にわか診断」をしてしまう方がいないとも限らない。そんな素人判断が誰かを追いつめることになってしまったら…。

 というわけで、やはりある程度の「専門知識」は必要不可欠。とはいえ「発達障害バブル」とまでいわれる現在、書店にいけば関連書籍が山ほどあるので、正直どれを選ぶかでも苦労するもの。そんな中、こと大人の発達障害に関しては決定版になりそうな『発達障害』(岩波明/文藝春秋)が登場したので紹介しよう。

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 著者の岩波明氏はADHD専門外来のある昭和大学附属烏山病院長であり、『大人のADHD もっと身近な発達障害(ちくま新書』(筑摩書房)ほか、多くの著書をもつ発達障害の専門家。まだまだ誤解や認識不足の多い発達障害臨床の現場には、周囲の人や本人がにわか診断したり、生まれつきの性格を混同したりという受診が実際に多いのだという。そこで、マスコミを含めた一般人が思い浮かべる発達障害の姿と、医学的な「疾患」の間の距離をうめるべく、豊富な臨床事例と共に大人の発達障害をわかりやすく解説してくれるのが本書だ。

 たとえば一般に「空気が読めない」「人の気持ちがわからない」といった人間関係に苦労するタイプの人を「もしかしてアスペ?」なんて決めつけていないだろうか。実はそれだけではアスペルガー症候群との判断はNO。医学的には「同一性へのこだわり」(特定の物事に執着したり、手順や配置にこだわったりすること)が伴うことが診断基準となる。残念ながらマスコミもきちんと理解していないのが実情で、その影響か病院では思い込み受診が少なくないらしい。

 内容的にはASDやADHDなどの基本的な診断ガイドラインを明示しながら、実際の症例などを具体的に紹介、最新状況もフォローするというベーシックなものだが、とにかく大事なことが新書のコンパクトさでまとまっているのがありがたい。また「ASDとADHDの共通点と相違点」や「アスペルガー症候群への誤解はなぜ広がったか」「発達障害と犯罪」といった気になるポイントも豊富な事例と共に解説されており、読み物としても興味深い一冊だ。

 なにより最終章の「発達障害を社会に受け入れるには」は、あまり知られていない発達障害専門のデイケアの現状と、それらを通じて社会復帰が可能になったケースが具体的に紹介されているのに注目。ADHDに関しては、効果的な投薬治療によって症状を安定させることも可能というのも発見だろう。

 いずれにしても、情報が一般化すればするほど誤解も広がるのが世の常。ある意味「一般常識」としてこうした知識をインプットしておくだけでも視野が違ってくるだろう。「家庭の医学」のように身近な定本にしたい一冊だ。

文=荒井理恵