ムラムラではなくイライラが原因!? 女性が知らない痴漢と性欲の関係

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公開日:2017/6/17


 ワタクシ事ですが、先日、痴漢被害に遭いました。ラッシュ時に電車の乗る生活から離れてもう何年も経つので、被害に遭うのはひさしぶりです。休日に私鉄のI線で移動中、最初にその男性の手が触れたときは「偶然かな?」と思いました。同じ状況下では、多くの女性が一度はそう思うよう心がけているのではないでしょうか。痴漢問題を語れば、「痴漢冤罪!」とボレーで返される昨今、「これは痴漢だ」と判断を下すにも慎重になります。いままさに被害に遭いながら、当事者が気を遣う理不尽。しばらく不快に耐えた後、「痴漢行為である」と確信した私はその男性の顔を正面から見据え、「痴漢ですよね? これ以上続けるなら、駅の事務室に一緒に行ってもらいます」と伝えました。男性は途端に背を向け、知らん顔をしました。

 すでに痴漢行為が行われているので、本来なら「これ以上続けるなら」と条件付きにせずそのまま通報すべきです。しかし私はそのとき目的地に急いでいたため時間がありませんでした。痴漢に遭っても泣き寝入りする被害者が多いことはよく知られていますが、通報したことで時間をとられたり、煩雑な手続きでストレスを感じたり、被害者が犠牲を強いられることがなければ、通報件数が多少は伸びるかもしれません。

■モンスター化する男性の性欲

 痴漢は、日本で特に多い性犯罪といわれています。警察庁の発表によると、2011年に全国で「電車内における強制わいせつ」として認知されたのは、298件。「電車内における迷惑防止条例違反(うち痴漢行為)」の検挙件数は、3,679件。これが氷山の一角であることはいうまでもなく、別の調査では調査対象の女性2,221人中304人が「過去1年間に電車内で痴漢被害に遭った」と回答し、そのうち約9割にも当たる271人が「痴漢被害に遭っても警察に通報・相談していない」ことが明らかになっています。私も、長らくそのひとりでした。これまでに何度も泣き寝入りしてきました。それがなぜ今回は、痴漢に対してNOの意思表示をできたのか。それは、「痴漢は男性の性欲によっておきる行為ではない」と知ったからです。

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 男性の性欲を“得体の知れない、怖いもの”と思っている女性は少なくないでしょう。男性自身も制御できない、とてつもないエネルギーを持ったもの。それを発散するためなら、男性は女性に対し何をするかわからない。先月、橋下徹前大阪市長による、「性犯罪抑止にもっと風俗業活用を」といった主旨の発言が話題となりました。女性を“使って”の性犯罪防止などあってはならないことですが、これも「男性の性欲は、溜まりすぎるとその本人を犯罪に走らせ、女性を傷つけることもある(それは仕方のないこと)」という認識に基づいてのものです。

■男性を痴漢に突き動かすのは「性欲」ではない

 しかし、「痴漢をはじめとする性犯罪は、男性の性欲ゆえに起こる」という思い込みは、痴漢行為の本質を見えなくすることでしかなく、なんの解決にもならないと教えてくれる1冊が『性依存症のリアル』(榎本稔編集、金剛出版)です。本書には性犯罪の事例が加害者視点、あるいは被害者視点で紹介されていますが、うち痴漢加害者の体験談が3例収録されています。複数の典型例を組み合わせ、創作も加えて作成した架空事例ではありますが、いずれも「性欲ゆえに痴漢をしたのではない」と知るには十分です。

 会社や家庭でのストレスから痴漢が習慣化し、標的を見つけてはほぼ自動的に痴漢行為に及ぶ男性、飲酒で自制がきかなくなり女性に加害する男性、痴漢をゲームと捉えスリルを味わう男性……。ストレス解消やゲーム=“娯楽”に女性を“使う”ことも言語道断です。また、被害女性にとっては、痴漢行為の動機が何であるかは、いってしまえばどうでもいいことです。きっかけがなんであれ、加害は加害。許されることではありません。しかし、イメージのなかでモンスター化した男性の性欲が被害女性の恐怖を増幅させる一因なのだとしたら、痴漢行為は性欲に起因するものではないと知ることは無意味ではないでしょう。得体の知れないものではなく、もっと卑近なものに原因があると理解すれば、女性は恐怖心を跳ね返し、通報への一歩を踏み出すことができるかもしれません。

■痴漢成功ストーリーを断ち切れ!

 今回の痴漢被害で、私は通報するまでに至りませんでした。しかし、同書で挙げられた事例を見ると、痴漢行為は習慣化すること、ゲームとしての中毒性があることがわかります。一度の成功が次の加害につながり、そこで成功すればさらに次の加害に……とループするので、少なくとも加害者の「痴漢成功体験の連鎖を断ち切ること」はできたのではないかと思っています。

 もちろん、通報の努力を女性側だけに求めるのは間違いです。先述の調査では、検挙・送致された219人のうち約70%にあたる147人が「通勤・通学の路線」にて痴漢行為を働いたことがわかっています。痴漢成功体験をぶつ切りしたはいいものの、また同じ車両に乗り合わせたら報復される心配がある……など、女性が通報できない理由はひとつやふたつではありません。女性だけでなく、社会全体が痴漢の実態を把握し、その撲滅に向けてアクションしていくことを強く望みます。

文=citrus フリー編集&ライター 三浦ゆえ