ムダ毛お手入れ問題、ハンドバッグの中に凝縮された自分のダメな部分…阿川佐和子が翻訳した、女性の本音をつぶやいたベストセラーエッセイ

暮らし

公開日:2017/6/22

『首のたるみが気になるの』(ノーラ・エフロン:著、阿川佐和子:訳/集英社)

 「首」が気になるようになったのは、いつ頃からだろう。たるみというか、しわというか。間違いなく、10代の頃にはなかったものが、そこにはある。これが「老い」なのか。毎日の洗顔の後に、マッサージしてみたりするけれど、効果があるのかどうかもわからない。

 こんな風に感じたことがある人には、ぜひ『首のたるみが気になるの』(ノーラ・エフロン:著、阿川佐和子:訳/集英社)をオススメしたい。ただ、ここに書かれているのは「年をとっても若々しく! アンチエイジング!」といった、スーパーポジティブな内容ではない。日頃、多くの女性(もしかしたら男性も)が抱いている(であろう)悩みや不満が、赤裸々に語られているのだ。

 著者は、『ユー・ガット・メール』や『めぐり逢えたら』などのラブコメの監督・脚本で有名なノーラ・エフロン。原文の英語もかなり面白いと思うのだが、それを阿川佐和子が翻訳しているのだから、面白くないわけがない。

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■バッグは嫌いだ

 バッグが好きな女性の話はよく聞くが、使いこなせている方はどのくらいいるだろうか? ノーラは、ハンドバッグが大嫌い。むしろ、憎悪している。なぜなら、ハンドバッグの中に自分のダメな性癖がすべて凝縮されているからだ。彼女のハンドバッグの中は、結構すごいことになっている。ミントが散乱し、キャップのない口紅、どの旅のものかわからない搭乗券、使用済みか未使用かの区別もつかないティッシュ、古いティーバッグ、銀磨きに使ったのかと思うほど開き切ったむき出しの歯ブラシなどが、散乱しているのだ。程度の差はあれど、わからないでもない。バッグの中をすっきりさせたいとは思っていても、いつも何か探すたびに手を入れてかき回し、さらにぐちゃぐちゃになっていく…。ノーラのハンドバッグを巡る試行錯誤には、共感しかなかった。同じようなタイプの方は、ぜひご一読を。

■ネバーエンディングお手入れ

 髪やネイル、ムダ毛など、「お手入れ」からは逃れられない。ノーラ曰く、ここでの「お手入れ」は「ある年齢を過ぎたら、あとはごまかすしかないわね」という時のもの。「身なりに無頓着になった人」と思われないように、欠かさずやるべき「お手入れ」だ。例えば、この時期、特に気になってくるムダ毛。口ひげから脚やビキニラインまで、ノーラも長年にわたり闘っていたそう。脱色してみたり、カミソリで剃ったり、ワックス脱毛をしたり。ちなみに、ビキニラインのワックス脱毛は、産みの苦しみと同じくらい痛かったそうで、ラマーズ式呼吸法で乗り切ったとか。

■私を通り過ぎた男とレシピたち

 ノーラは、かなりの料理好きだ。しかも、凝った料理を作る。料理本を愛用し、レシピの作者と会話をしながら料理を作るのだ。ここでは、彼女の料理遍歴が存分に語られている。実際にどんな料理なのか知らなくても、なんだか彼女と一緒に料理を楽しんでいるような気持ちになる。そんな、彼女の料理への愛が詰まっている。ちなみに、彼女の友人の母親は、恋人の家に転がり込んだ娘に対して、(結婚したいなら)「料理を作ってあげることだけはおやめなさいね」と言ったそう。日本では「胃袋をつかむ」という言葉があるが…少し出し惜しみをした方がいいのだろうか。

 残念なことに、著者のノーラは、2012年に亡き人となってしまった。しかし、今も愛される数々のラブコメを世に送り出した彼女のチャーミングな人柄が、本書にはギッシリ詰まっている。大きな成功を収めたセレブなのに、考えていることは私たちと変わらない。最後には少ししんみりして、でも笑顔でノーラに「行ってらっしゃい。またね」と言いたくなるような一冊だ。

文=松澤友子