新生鷹の団の使徒“グルンベルド”の過去を描く! 『ベルセルク』39巻と同日発売した初のノベライズとは?

文芸・カルチャー

更新日:2021/5/20


『小説ベルセルク 炎竜の騎士』(深見真:著、三浦建太郎:原作/白泉社)

1989年から連載が続くダークファンタジー『ベルセルク』。黒い剣士と恐れられ、身の丈を超える巨大な剣を持つ隻眼の主人公ガッツが、己の肉体に生贄の烙印を刻まれた復讐のため、そして愛する仲間を救うために戦う物語だ。そのストーリーの外伝が今回初めて小説として書き下ろされ、6月23日に『小説ベルセルク 炎竜の騎士』(深見真:著、三浦建太郎:原作/白泉社)として発売された。その主人公は「炎の巨竜」の異名を持つ武人であり、新生鷹の団の幹部であるグルンベルドだ。

グルンベルドがガッツと初めて戦ったのは、魔女のシールケがガッツと旅を共にするきっかけとなったエピソードだった(コミックス26~27巻に所収)。シールケの師である霊樹の館に棲む魔女フローラが、新生鷹の団の戦魔兵に襲われ、館もろとも火を放たれてしまう。そこへ使徒ゾッドらとともに現れたのがグルンベルドだ。ガッツを上回る巨躯を誇り、竜の鎧と盾を身に着けたグルンベルドは「鷹の団の一武人として黒い剣士に一騎撃ちを所望する」とのたまい、戦槌(ウォーハンマー)を振るう。満身創痍のガッツは防戦一方で、それを見たグルンベルドは「ぬるい」と一喝、凄まじい力を見せつけた。

劣勢となったガッツに自らが護符を施した呪物を授けるようシールケに伝えるフローラ。それこそ鉱精(ドワーフ)によって作られた、人体の限界を超え、命の危機と引き換えに強大な力を得る「狂戦士の甲冑」であった。これを身に着けたガッツは体の痛みを一切感じなくなり、まるで鬼神の如く戦い、ついにグルンベルドは使徒の火竜と化して火を噴いた。しかしガッツの攻撃は鋼鉄以上の堅牢を誇るグルンベルドの鋼玉の皮膚に亀裂を生じさせ、己の力に絶対的な自信を持っていたグルンベルドのプライドにも傷をつけた。「逃さぬ!!」とガッツらを追うグルンベルドだったが、フローラの発する“炎の壁”に阻まれ、後退を余儀なくされてしまった。

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このグルンベルドは北方の小国「グラント大公国」の出身であり、この地を侵攻しようとするチューダー帝国に対する守護者であったというエピソードがある。その物語が『小説ベルセルク 炎竜の騎士』で描かれているのだ。

“海熊の民”と恐れられる海洋狩猟民族の血を引くグルンベルド・アールクヴィストは、14歳のある日、不思議な少女と銀狼に出会い、「強い竜になる」と予言される。その後母を殺され、チューダー帝国に捕らえられたグルンベルドは、そこで大公の息子エドヴァルドと名家の娘であるシグルと出会う。転化教育を強要される虜囚という絶望的な状況からどう脱したのか、彼の唯一無二の武器である戦槌との運命的な出会い、武人としてのグラント大公国での活躍、そしてなぜ竜の道を開き、深淵に至る呪物「ベヘリット」を手に入れ、使徒へと転生を遂げたのか……新生鷹の団で辣腕を振るうグルンベルドの過去とその思いを知ると、ガッツとの戦いで発せられたセリフや戦う意味により一層深みが増すことだろう。

『小説ベルセルク 炎竜の騎士』(三浦建太郎/白泉社)

本作の執筆を担当したのは、アニメ『ベルセルク』でシリーズ構成を担当した深見真。またノベライズは続刊の予定があるそうなので、『ベルセルク』に登場するキャラクターの背景を描く物語のさらなる充実に期待したい。そしてもちろん本書には原作者である三浦建太郎による挿画も満載、物語の世界をさらに広げてくれる。

そして1年ぶりとなる待望の最新刊、ヤングアニマルコミックス『ベルセルク』39巻も『小説ベルセルク 炎竜の騎士』と同時に発売された。物語の開始当初からガッツと旅を共にする妖精パックの故郷であるスケリグ島に上陸した一行は、果たしてキャスカの精神を回復する術を持つという妖精郷(エルフヘルム)の“花吹雪く王”に会えるのか? こちらも見逃せない展開となっている。

文=成田全(ナリタタモツ)