33歳漫画家志望が描く、ホントに怖い「脳梗塞」……なのに笑える超ポジティブ闘病記

暮らし

公開日:2017/6/27

『33歳漫画家志望が脳梗塞になった話』(あやめゴン太:著、冨田泰彦:監修/集英社)

 厚生労働省の「死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率」を見ると、脳梗塞による死者は年間6万人を超えている。若い人には縁がないと思われがちで、小生も今まではそう思っており全く意識していなかった。しかし、日本生活習慣病予防協会の年齢階級別受療率によれば、40代以下の若年層でも少ないとはいえ発症例があり「若年性脳梗塞」と呼ぶそうだ。本書『33歳漫画家志望が脳梗塞になった話』(あやめゴン太:著、冨田泰彦:監修/集英社)は33歳の若さでそれを経験した著者の実話である。

 ある日の朝、著者がいつもどおりに出勤準備をしていると、急に左腕が重くなったという。それでも気にせず出勤するものの途中で左足にも力が入らず、徐々に指も曲がらなくなり物を掴めなくなった。さすがに危険を感じ早退し、よろよろと歩いて病院へ行くと午前中の受け付けは終了という運の悪さ。やっとの思いで別のクリニックへ行くと医師から「なぜ救急車を呼ばなかった」と叱られ大病院へ転送、即時にMRIで検査をすることに。その結果、脳内の細い動脈が詰まる「ラクナ梗塞」と判明し緊急入院となった。

 ここで面白いのが、著者はパニック気味になりながらも、その状況を無事な右手でメモしていること。今後のネタになるかもと感じたそうだが、これは著者のマンガを描きたいという想いがそうさせたのだろう。事実、そのメモが本書の基になったのだ。

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 ところで、なぜ救急車を呼ばなかったことで医師から叱られたのだろうか。実は、発症から治療開始が遅れれば遅れるほど、マヒが長引き回復の可能性も低くなるというのだ。救急車を呼ぶということには多くの人が抵抗を感じるだろうが、一刻を争う事態だけに症状を自覚したら是非とも呼んでほしい。放置していても治りはしないのだ。

 そして著者の入院生活が始まるのだが、医師からは治療とリハビリで1年くらいはかかり、しかもあくまで「元通りではなく──回復するかもです」と告げられる。確実な保証はできないのだ。確かに、スタッフは最大限の努力をしてくれるが、人間の体は機械ではない。部品を交換すれば済むというわけにもいかないのだ。もっとも、これは他の病気にも当てはまることなので、我々も心に留めておきたい。

 ここまで深刻な現実を突きつけられ、普通なら悲壮感が漂うノンフィクションになるはずだが、本書にそんなことは一切ない。パンダとして描かれた著者本人がジタバタとリハビリに励む姿は、むしろ楽しそうに見えるほどだ。確かに事態は深刻であり、治療とリハビリは一筋縄でいくものではないが、それでも著者はポジティブに取り組んでいく。元々の性格かもしれないが、なによりマンガを描きたいという熱意がそうさせているのだと感じる。その努力の甲斐あって、1か月半で退院することができ、現在はほぼ発症前に近い状態まで回復しているという。本書を描き上げたのが何よりの証拠だ。

 脳梗塞というと冬場の発症が多い印象だが、意外にも夏場こそ増えるという。その理由は、脱水状態で水分が足りないと血液がドロドロになり、血栓ができやすくなるからだ。熱中症予防に水分のこまめな補給が勧められるが、同時に脳梗塞予防にもなるのだから、余計にその重要性を再認識する。

 なお、「ビールで水分補給!」などというのは勿論ダメ。アルコールやカフェインは利尿作用があるので、白湯やミネラルウォーターが良いだろう。麦茶もノンカフェインだから、小生は愛飲中。本書監修の冨田泰彦氏によると、食事以外で1日800mlくらいの摂取を目安に勧めている。勿論、睡眠不足や食生活にも注意すべきだし、適度な運動も大切。要は「健康的な生活」が一番なのだ。

 それでももし「顔のマヒ」「腕のマヒ」「言語障害」のどれか一つでも自覚したら、一刻も早く救急車を呼ぶこと。回復の可能性は、時間との闘いであることはくれぐれも肝に銘じてほしい。

文=犬山しんのすけ