“モフモフ”という表現はどうやって生まれたのか? 日本語を豊かにしているオノマトペの謎と魅力に迫る!!

ライフスタイル

2017/6/29

『オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで』(窪薗晴夫/岩波書店)

 漫画雑誌の編集者さんから、漫画を読めない子供が増えているようだと聞いた。動画やゲームアプリなどに親しんでいる故なのか、コマ割りを読む順序といった漫画の文法が理解できないらしい。いずれWEB漫画による影響は出てくるかもしれない。というのも、スマホで読むことに特化して縦スクロールのコマ割りだったり、一コマずつ表示するよう加工されていたりする作品も増えてきているからだ。私が特に驚いたのが、オノマトペの表示方法。既存の漫画ではコマを跨いで描かれることもあるオノマトペが、見せ場のコマと一緒に切り出されているかと思えば、オノマトペだけが画面に表示されるなんて使い方もあった。漫画に欠かせないオノマトペにも、時代の変化が訪れているのか。そんな興味を持って読んでみたのが、この『オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで』(窪薗晴夫/岩波書店)である。

 本書は、言語学や心理学、認知科学などを研究している、大学教授や准教授あるいは研究員といった複数の専門家が、それぞれの分野でのオノマトペに関する研究成果をまとめたものだ。本書によればオノマトペには代表的な、人間や動物の声を表す「擬声語」と水の流れや火の燃える音などを模した「擬音語」の他に、光る様子のような無生物の状態を表す「擬態語」、物が動くといった動作や状態を表す「擬容語」に、怒りや楽しさといった人間の心理を表す「擬情語」の5種類に分類できるという。

 たまに「世界最大のオノマトペ言語は日本語である」というような言説を見かけることがあるが、当然ながらそんなことは無いと本書では指摘している。ただし、オノマトペを学術的に研究すると謎も多いそうで、「未開・未発展の地域に多い」とする言語外要因仮説に基づくと、先進国のはずの日本で豊富な理由が説明できない一方、南アフリカにおいては近代化が進むとともにオノマトペが衰退したという報告があるため、空論として退けることもできないとのこと。

 他には、全てのものに霊的な存在が宿ると考える「アニミズム文化に多い」とする言語内要因仮説というのもあり、星の光る様子や花が咲く姿などを表現するもので、実感としてはこちらの方が納得できそうな気がする。ただし世界規模で考えると検証が進んでいないのが実情のようで、さらなる研究が期待される。

 本書の最終章には「オノマトペ自動生成システム」なるものが出てきて、これがまた興味深い。データベースからオノマトペを探し出して組み合わせるのではなく、構成する音や文字の順序などから、「明るい」「乾いた」「動的な」といった80項目以上を数値化して比較するシステムを応用しており、遺伝的アルゴリズムで選択と淘汰を繰り返して候補を挙げるそうだ。著者は「モフモフ」がいつ頃から一般的になったのかを調べるとともに、このシステムを用いて「もっとやわらかくて温かい印象」のオノマトペを生成してみることを試すのだが、その結果は本書で確かめてもらいたい。

 小説で使われていた静寂を表す「シーン」という文字表現をオノマトペとして漫画に持ち込んだのは、漫画の神様と称される手塚治虫だという説があり、手塚治虫に続く戦後の漫画家たちが新しいコマ割りを使い始めると、各コマに読む順番の番号が振られたり矢印が描き込まれていたりしたことがある。それが不要になったのは読者の側が慣れてきたというばかりでなく、漫画家の方も技巧を凝らしつつ新たな表現を生み出し続け、読者との間にコミュニケーションの関係が築けたからだろう。WEB漫画に限らず新たな表現媒体が出現した未来に、どんなオノマトペが誕生するのかもまた楽しみである。

文=清水銀嶺