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発酵に人生相談? 健康効果だけじゃない、生き方の奥義がつまった“発酵”という現象

『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(小倉ヒラク/木楽舎)

 さほど興味がない人でも目につくほど、甘酒をはじめ発酵食品のブームが加速しています。美容効果の点から特に女性の注目が集まっている発酵食品。その効用や発酵のメカニズムはもちろんとても興味をそそられる奥深い世界ですが、視点をガラッと変えて、発酵という現象そのものを人間の生き方・社会のあり方に適用して考察してみる大胆なアプローチの一冊が『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(小倉ヒラク/木楽舎)です。

 台所のぬめりの元になっている細菌は電気信号でコミュニケーションをとっているというニュースが最近ありましたが(「さいきん」にかけたジョークではありません)、私たちのまわりには目に見えないだけで、信じられないような数の微生物が生息しています。

畑の土をつまみあげてみると、1gあたり3~5億くらいの微生物が住んでいる。都会のビル街であっても、1平方メートル(※)あたり数千匹の微生物が飛んでいる。僕たちのお腹のなかにはなんと! 何十兆もの微生物たちがいる。「兆」って……国家予算かよ!(※原文は記号)

 本書では、目に見えない世界をできるだけイメージできるように、発酵菌はジョン・レノンで酵素はイマジンである、などユニークなたとえを使いながら、著者は微生物たちとのコミュニケーション方法を私たちに教えてくれます。そして書名が示す通り、本書のテーマは人類学、つまり焦点はヒトにあります。

 デザイナーとして活躍し、パリで美術を勉強した著者は、人間が目に見えない微生物とコミュニケーションをとるスタンスをホモ・ファーメンタム(発酵するヒト)という造語で示し、人間の心の持ち方、そして社会のあるべき方向にまで話を広げていきます。「制限がクリエイティビティを育てる」という章で、すんき(長野・木曽の伝統漬物)、碁石茶(高知県の発酵茶)、くさやを作る際の発酵技法を挙げた上で、著者はこう述べます。

依頼主が解決したい問題はいっぱいあれど、予算も時間も限界があり、さらに業界の規定や法律の壁も立ちはだかってくる。通常、デザインのプロジェクトは「ないない尽くし」であることがほとんどだ。しかし。この制限こそがクリエイティビティの源泉なのであるよ。

 何かに憧れるから、物事を起こす原動力となる。何かが足りないと思うから、それを補おうと思う。時には失敗してしまうこともあるかもしれないけれども、結果ではなく過程が重要であるとよくいわれる通り、その経験は必ず違う時にいきてくる。発見がなければ仕事の面白みはない。変化球系の経歴を持つ著者にそうしたことを再認識させ、人生の転機を与えたのは醸造家たちの仕事への取り組み方だったといいます。

とりわけ発酵食品をつくる醸造家。彼らの働きかたや世界観は、自分の仕事に対する先入観を根底から覆した。なにせ、彼らは「見えない生き物」と関わって仕事をしているんだぜ?

 未知のことに挑戦し、何かに気づき、目に見えないものをたぐりよせていく。台所のぬめりを生み出す細菌のように本能的に情報を交換して、いつの間にか自分で作っていた壁を壊し、有機的な発想をうむ。そうした生き方を発酵という現象から学ばんとする本書を、皆さんのブレイクスルーの手がかりにしてみてはいかがでしょうか。

文=神保慶政

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