「死後、誰にも見られたくないデータ」を遺された者はどう捉えるのか 本多孝好著『dele ディーリー』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

作家・本多孝好の手がけた「生と死」「記憶と記録」をめぐる連作ミステリー『dele ディーリー』が2017年6月29日(木)に発売された。

同作が焦点を当てるのは“死後に遺されてしまう個々人のデータ”という現代的なテーマ。遺されたデータを削除する仕事を請け負った2人の若者の目を通して、死にゆく依頼人の真実や最後の願いが紐解かれていく。

本多はデビュー作『MISSING』の大ヒット以来、多彩なジャンルの作品を発表してきた。近年でも2014年に『真夜中の五分前』、2015年には『ストレイヤーズ・クロニクル』『at Home』が立て続けに映画化されるなど、注目を浴び続けている。今回の作品は『MISSING』『MOMENT』『WILL』などで「生と死」に直面した人々を描いてきた著者が、今だからこそ書き得た新たな代表作だ。

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同書は映像化プロジェクトも進行中。刊行に当たって、主人公たちの仕事の裏側が垣間見えるイメージ動画も同時公開されている。

<『dele ディーリー』について>
「dele.LIFE(ディーリー・ドット・ライフ)」。真柴祐太郎がその殺風景な事務所に足を踏み入れたのは、3カ月ほど前のことだった。所長であり唯一の所員でもある坂上圭司いわく、「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除する。それがうちの仕事だ」。誰かが死ぬと、この事務所の仕事が始まるのだ。新入りの祐太郎が足を使って裏を取り、所長の圭司がデータを遠隔操作で削除する。淡々と依頼を遂行する圭司のスタンスに対し、祐太郎はどこか疑問を感じていた。詐欺の証拠、異性の写真、隠し金―。依頼人の秘密のファイルを覗いてしまった2人は、次々と事件に巻き込まれる。この世を去った者の<記録>と、遺された者の<記憶>。そこに秘められた謎と真相、込められた切なる想いとは?

新たな代表作を生み出した本多は、同作について以下のように語っている。

デジタル技術がこれだけ生活に浸透している今、個々人が使うデジタルデバイスは、その人の有り様を端的に反映しているように思えます。人は死に際して、なるべく綺麗なものだけを遺したがります。あるいは、遺族は故人のなるべく綺麗なものだけを記憶に留めようとする、というべきでしょうか。他方で、デジタルデバイスはそういった価値判断を一切せずに、故人の有り様をそのまま、しかも永続的に遺してしまいます。今後、見たくなかった、知りたくなかった故人の姿に、戸惑う遺族も増えるのではないでしょうか。本作では、そんな社会事情を背景に、「故人が死に際してdele(ディーリー・校正用語で削除の意)しようとした自分の中の黒い部分」を、遺された者はどう捉え、どう向き合っていくのか。タイプの違う若者2人の目を通して描きたいと思いました。本多孝好

デジタル技術によって引き起こされる現代的な問題と、「生と死」という普遍的なテーマが交差する同書。一体どんな物語が繰り広げられるのか、ぜひ手に取って確かめてみてほしい。

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撮影:ホンゴユウジ
本多孝好(ほんだ・たかよし)
1971年、東京都生まれ。1994年『眠りの海』で第16回小説推理新人賞を受賞。1999年、同作を含む短編集『MISSING』が大ヒット作となる。2014年『真夜中の五分前』、2015年『ストレイヤーズ・クロニクル』『at Home』が立て続けに映画化され話題となる。他著に『ALONE TOGETHER』『MOMENT』『WILL』『君の隣に』『Good old boys』など多数。

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