プロレスラー・飯伏幸太の肉体美の秘密。『イノサン』のマンガ家・坂本眞一も絶賛!【前編】

エンタメ

公開日:2017/7/6

飯伏幸太 プロレスが作った美しい体

 その肉体と、崩れ落ちる姿は、なぜ観る者を惹きつけるのか――。かねてより飯伏幸太選手(飯伏プロレス研究所)のファンだというマンガ家・坂本眞一氏(『イノサン』『イノサンRouge(ルージュ)』)による飯伏選手の“美”についての寄稿と、飯伏選手本人へのインタビューでそのルーツに迫る。
 体重増加に成功した意外な理由、中邑真輔選手との「あの試合」のあと飯伏選手に訪れた不思議な5時間など、本誌インタビューには納めきれなかったエピソードを加えた完全版。

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 写真撮影の際、ロンドン遠征でできた火傷(車の上に立ち、打ち上げ花火を自らの胸に向け発射!)を「胸に傷があるんですけど、大丈夫ですか?」と気にしていた飯伏選手。写真に残る、美しき戦いの傷跡にも注目を。

[寄稿]坂本眞一

完成された肉体と散華の美

 2006年、K-1MAXにプロレスラーが参戦すると聞き、飯伏選手を初めて知りました。(※結果的には、対戦相手のアンディ・オロゴンが欠場し、参戦は実現しなかった)それから、幾多の試合を観戦してきましたが、2015年のさいたまスーパーアリーナでの試合で、高所から何のためらいもなくムーンサルトを放った時は恐怖心がないのかと驚き、飯伏幸太という人物が僕の頭から離れなくなりました。時折見せる狂気の瞳にも釘付けです! 何をするか分からない緊張感がたまりません。

 僕は作画にあたり、男性の骨太な身体の線に女性のしなやかで柔和な線を加えることで強さと美しさを追求していくのですが、飯伏選手の肉体美は恐ろしいほど完成されていて、ルネサンス期の絵画から飛び出してきたかのような錯覚に襲われます。それがしなやかに飛び跳ね、打ち、時には叩かれマットに崩れ伏す……まさに芸術です。

 飯伏選手の魅力は「散華の美」にもあると思います。プロレスは技の決まる瞬間も見応えがありますが、マットに崩れ落ちる瞬間も目を見張るものがあります。技を受け意識が飛び、重力から解放されたかのように髪の毛が逆立ち、恍惚ともとれる表情、飛び散る汗。脳からの指令を断ち切られ、行き場を失った四肢。その刹那、肉体はしなやかに脱力しながら崩れ落ちる……! その姿も期待して観ています。

 リングという限られた空間の中で無限の可能性を表現していることに共感を覚えます。マンガも限られたページ数で読者に感動を与えるものですが、表現の限界を感じることもあります。しかし飯伏選手は常識を覆してどんな場所をも闘いの場に変えており、刺激的でした。マンガも自由な発想で描いてもいいのだ、誰に批判されようと好きな道を突き進みたい、と勇気を振りしぼり創作に励んでいます。

 僕のマンガで苦しみや痛みは大事なテーマです。大きな成功や幸せな場面に視線を送りがちですが、大抵はその場面に至るまでに多くの困難をくぐり抜けてきています。最後の勝利を掴むまで、レスラーたちは何度もマットに這い蹲り、諦めず技を仕掛ける……プロレスはまさに人生の縮図。飯伏選手には人間の生き様を美しく魅せる力があると思います。

 飯伏選手への質問は3つです。
(1)枠に収まらないプロレスを日々されていますが、自分なりのルールなどはありますか? 許せないことなどありますか?
(2)闘いにおいて対人関係で大切にされていることは?
(3)試合中の痛みなどに対する恐怖心はありますか? それはどのように克服していますか?

 飯伏選手には見たこともない景色を見せてくれることを期待しています!

(c)坂本眞一/集英社

さかもと・しんいち●1972年大阪府出身。91年『キース!!』でデビュー。2010年『孤高の人』で第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。『イノサン』が「マンガ大賞2015」第7位にランクインしたほか、ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9」にも出展するなど注目を集めている。

18世紀フランス。「生まれ」ですべてが決まる絶対王政の時代。国王直下の死刑執行人を代々務めるサンソン家の長男シャルル‐アンリ・サンソンは、苦悩しながらもその重責を全うしようとしていた――。残酷な場面をも圧倒的な筆致で美しく描き切る。

中心人物はシャルルから妹マリー‐ジョセフへ。女としての役割を課せられることに抗い、自らの意志で処刑人となることを選び、自由を勝ち取っていくマリー。アントワネット、ルイ16世らを交え、「革命」に向かう中、それぞれの道で生き抜こうとする人々を鮮烈に描く。

>>インタビュー 飯伏幸太「リング上でやることの全てが表現です」