読書芸人絶賛の『教団X』がついに文庫化!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『教団X』(中村文則/集英社)

信じる者は間違いなく救われる。何かに傾倒することは、どれほど気が安らぐことだろう。何も信じることができない時代だからこそ、何かを信じ抜きたい。宗教と人との関係が何かと話題にされる今年だからこそ、宗教をテーマとしたあの問題作をもう一度読んでみてはいかがだろうか。

2016年本屋大賞にノミネートされた中村文則氏著の『教団X』がついに文庫化される。この本は元々芸能人、特に芸人からの推薦でその人気に火がついた小説。芥川賞作家・又吉直樹やオードリー・若林、三四郎・小宮らが大絶賛。そして、それに続いて『教団X』を手にとった人たちの間で一大ブームとなった。

圧倒されました。もの凄く想いが詰まってます。しばらく眠れなくなりそう…

とても、良い本だった。この厚さを全く感じさせない、全て詰まった、どこも飛ばしよみできない、意味のある言葉の連続だった。とても満足する内容。この本は沢山の人に読んでもらいたい。作者の考え方にとても共感した。久々に手応えのある本に出逢えた。

この作品は、「奇書」と言っても過言ではない。読む人を惑わし、「洗脳」してしまう…。真実の愛の姿、まばゆいばかりの強い光、そして、底の知れない闇。溢れんばかりの「生」に読者は否が応でも惹き込まれることだろう。

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舞台は、2つの対立する宗教団体。自分のもとから去った女性・立花涼子の行方を追って楢崎はとある宗教団体に足を踏み入れることになる。そこは、アマチュア思想家を名乗る松尾が作り上げた宗教団体。楢崎の探している涼子は松尾の団体と対立する沢渡のカルト教団の信者であるらしい。家族のような温かなつながりを持つ松尾の教団と、セックスで人を洗脳していく沢渡の教団とを彷徨うことになる楢崎。生きる苦しみを抱えた信者たちと関わりあう中で、次第に翻弄されていく楢崎は、気づかぬうちに、4人の男女の運命、あらゆる欲望の渦に巻き込まれてしまう。———「あなたは、私がつかむことのできなかった、もう一つの運命だったの」。生きるとは。苦しみとは。宗教とは。惹かれ合い、反発し合う男女は一体どこへ向かうのだろうか。

この作品を読めば読むほど、その世界から抜け出せなくなっていく自分に気づく。読後、「作家・中村文則氏は、何か宗教をおこして教祖にでもなった方が良いのではないか」と本気で思った読者も少なからずいたに違いない。それほどまでに物語世界が作り込まれ、恐ろしさすら感じるのだ。松尾の説法も、沢渡の説法もべらぼうに面白い。そして、時折訪れる過激な描写。私たち読者たちは本の世界の中を惑い、そして、今まで見過ごしてきたあらゆることを考えさせられる。

性が「人が幸せを感じる時」に大きく関わっている事は理解ができる。その事実を伝える為にかなり過激な表現を使っているので、描写に対しての賛否が生まれてるんだろうな… 松尾の説法とキャラクターは本当に秀逸。松尾の説法がありきで、物語を後付けで作ったのかな?とさえ感じる程光を放っていた。この作品がキッカケで作者の本を全て読む!と決めた。

多くの人々が魅了された本をぜひともあなたも手にとるべきだ。もしかしたら、その内容に戸惑い、本の世界のなかを彷徨うことになるかもしれない。だが、その世界の先にさすまばゆいばかりの光をぜひともあなたも見つけ出してほしい。『教団X』は単行本だけでなく、文庫版でも多くの読者の心を動かすことになりそうだ。

文=アサトーミナミ

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